ガンパレードマーチ・外伝
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第二幕

 夕暮れの中を、善行は腕立て伏せをしていた。
すでに二回ほど気絶していたが、その度に水をかけられては目覚めていた。
 のろのろと、腕立て伏せを繰り返す。体操を最後にしておくべきだったのか。

「…一つ聞くが…予備士官になった学兵が…落第したらどうなる…」
「初日で軍をやめるおつもりですか。」
「…まさか。…ただ落第したらどうなるのか知りたいだけです。」

 腕を震わせながら。善行は半分落ちかかった眼鏡越しに若宮を見上げた。
腕を組んで立っている若宮。いまいましいこと、この男は自分と同じ教練を、汗もかかず、ネクタイも曲げずにやってのけたのだった。下士官が兵隊ばかりか士官にとっても畏敬の対象であることを彼は思い知った。

「そうですな、あと1年後くらいに戦況が悪くなった後、兵に徴兵されて、ろくに訓練できず突撃。そんなところですか。」
「…くっ。」
 このサディストめ。善行は幾度目か分からない腕立てをやってみせた。半身を伸ばし、唇から血が出るまでふんばる。
「あと3回です。」
 必ず復讐してやると善行は思ったが、それを試みればしたたかに逆襲されるだろうとも思っていた。
 力が抜けて、倒れ込むように突っ伏す。やかんで、頭から水をかけられた。
「疲れ過ぎて汗が止まってますからな。少々水分が必要でしょう。」
「…」
 善行の視線を、若宮は涼しげに受け止めた。見下して、口を開く。その姿は影のよう。

「ミスター。あなたはやりとげるべきです。人に命令をおこなう立場の人間は、人より苦労すべきだと思いますが。」
「…それが軍のやり方ですか…」
「はい。ミスター。その通りであります。軍は、率先を要求します。何よりも血を流す組織であるがゆえに。」
「…僕にそうしろと?」
「あと2回です。」
「僕はただの大学生だ。」
「…そして私はただのクローンです。故国を守るのに、どこかに違いがあるとでも?」

「…あと1回です。ミスター。」
 善行は、泣きながら歯を食いしばった。

「くそったれめ。くそったれめ…」
「結構です。ミスター。言い忘れておりましたが、軍においても、運命を呪う権利だけは、存在します。もっとも、他と同じく、最終的には受け入れるしかありませんが。」
 善行は、3回目の気絶をした。


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