ガンパレードマーチ・外伝
戻る
進む
トップへ

その次の日も、次の日も、善行は、走り、銃を構え、そして座学を受けていた。
 走る善行にあわせて自分も走りながら、若宮は言った。
「軍で応答されるときは、まず、はいを入れてください。断るときは、はい、いいえ違いますです。軍は命令を遵守させる存在です。」
「分かりました。」
「結構です。ミスター。走りながらペースを落して休憩することを覚えてください。行軍時には必須の技能になります。速く、遅く、速く、遅くです。慣れれば10時間走れます。」
「兵員輸送車があると思いますが。」
「日本には山もあれば、建物の中もあります。」
若宮は口調を変えた。「…それに、誰も歩いて進軍する奴がいるなんて思ってませんよ。たとえ幻獣、我々の敵でも。」

 善行は、走りながら少しだけ笑った。そういう芸当が出来る程度には体力がついていた。

「若宮戦士、あなたの方が指揮官に向いていると思いますが。」

「はい、いいえ。ミスター善行。自分は兵隊に命令を遵守させ、守らせるのが仕事であります。命令を考えるのは士官の仕事であります。」
「…それが間違っていても?」
「それが軍であります。大局的には間違ってないかも知れません。」
 若宮は、言外に自分が駒として死ぬ可能性を肯定してみせた。

「それに、出来の悪い士官は可能な限り排除するのが教育下士官の仕事です。」
「僕は優秀か?」
 善行と若宮は、30kgの背負い袋と、模擬銃を装備したまま、次々とコンクリートと板で出来た障害物を突破した。

「まだ排除されていないのは事実ですな。」
「なるほど。」
 善行は、千発に一発だけ実弾が入った銃を撃った。仮想敵を演じる新品十翼長が本気で身を伏せて、よける。撃たれる、よける、そして善行は、若宮と共に走った。
 千発に一発とは言え、実弾が入っているというのは、おおいに学生達の防御技術に関する関心を高くしたと、思う。

(殺しの技術ばかりがうまくなる。)
善行は嘆息した。船が好きで造船技師になろうと商船大学に入った自分と、今の自分との違いに気付いて、慄然とする。これが教育という奴ですか。
 気付かぬうちに善行は弾倉を入れ替え、片手を振って援護射撃をしながら、若宮以下の部下達を呼んだ。


(C)2000SonyComputerEntertainmentInc
戻る
進む
トップへ