ガンパレードマーチ・外伝
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校長は、深みのある顔を、口だけ笑わせた。
「そうか。そうだろうな。…義勇軍を送るのは良いとして、問題は兵員の数だ。」
「はい。」
「善行予備少尉。結論から言えば、我が軍はそう遠くない時期に徴兵制度を復活させることになるだろう。その中には、一般の学生や少年も含まれる。」
 善行は、無意識に指で眼鏡をあげた。
「聞こえているか。善行予備少尉。」
「聞こえていますよ…半ば呆れましたが。」
 校長は、善行をちらりと見たあと、壁にかけられた歴代の校長の写真を見た。
「呆れたというよりは、まあいい。これはまだ国会審議にも入っていない。官僚の、部課長クラス勉強会の"決定"だ。」
「どこが民主主義国家なんだか…それよりも、なぜ僕にそのような話をされるのですか。」

 校長は、ふと笑うと、善行を見る。
「わしの元教え子には、今でも私を慕ってくれる者がいてな。こういう話を聴かせてくれる時もある。皆、いい軍人だ。あるいは軍人だった。官僚も居る。」
「…」
 前鶴校長は、静かに言った。
「わしはタカだが、孫と同じくらいの子供が銃を持って撃ち合うのはどうにも納得がいかん。少尉、君はどうだ。」
「まったくであります。大佐。」

 校長は机の引き出しを開けると、書類を取り出した。机の上に放り出す。
「…だがもし、どうしようもないのなら、損害を最小限にする努力をするべきだろうな。転属命令だ。君は文部省付きの"軍人"になる。3年もせんうちに、実際に銃を持って部下を指揮することになるだろう。」

「私が、ですか。」
「そうだ。頭の悪い優秀な軍人には、この任務は向かん。善行予備少尉。貴様のような成績優秀でありながら、戦争を嫌う軍人が必要なのだ。」
「…私はずっと校長に嫌われていたのかと思いました。」

 前鶴校長は、さびしそうに微笑んだ。
「わしは一度も生徒を嫌ったことはないよ。 話は以上だ。…先任として、本田と言う女を出しておいた。お前より多少歳がいってるが、お前と同じように優秀な軍人だ。 もし会ったら、鬼教官がよろしくと、伝えてくれ。」
「は。」

 立ち上がって背を向けた善行と、それについて歩く若宮の背から、立ち上がった前鶴が声をかける。
「我々は軍人なのだ。子供を守るのも、その任務の中に含まれる。そうでなくてはいかんのだ。」


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