第12幕
若宮は、寮の前で、じっと待っていた。
「門限ぎりぎりですな」
「失礼いたしました。」
息を整えながら、善行は背筋を伸ばした。
若宮は、体力がついたもんだと思った。駅からここまで20分はあるだろう。
「いえ、時間までに間に合えば、いいのです」
「尾行はされていなかったように思います」
「どうでしょう。尾行に関して我々は素人も同然です。それよりも」
若宮は、口の端を少しだけゆるめると、自らの唇を指でなぞった。
「口紅がついております」
「……失礼」
乱暴に手の甲で己の口をぬぐうと、善行はしかめつらしい顔をした。
若宮は笑い、次に神妙そうな顔になった。
「自分ももてたいものです」
「僕だってそこそこです。戦士ならすぐですよ」
「どうでしょうか。私は軍以外のことを、知りませんから」
「僕も似たようなものです」
「それだといいのですが、それはさておき、まずは生き残ることを考えるべきでしょうな」
「ええ、それについてですが、相談したいことがありましてね」 |