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一方その頃。
加藤遼子は、自室で、布団に包まっていた。
いじけていたのである。
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さらに一方その頃。
居間で静かにお茶をすする遼子の母の元に、一人の客が落っこちてきた。
「あたた。また高度調整失敗したあ」
落ちてきたのは、不釣合いなくらい大きな白い帽子をかぶった少女だった。
お茶をすすり、静かに口を開く遼子の母。
「やっぱりきましたなあ。なにかまた、誰かの人生でも変えに?」
涙目で顔をあげたのは新井木だった。立ち上がり、埃をはらった。ない胸を張る。
「変えに来たんじゃないわ。あるべきところに戻しにきたのよ」
遼子の母は冷静である。3DTVを消して、口を開いた。
「そうでしたな。……娘は、奥の部屋でお篭り中ですえ」
「ありがと、じゃ、いってくるっ!」
コォォと息を吸い、手を青く輝かせる新井木。瞳も青く輝きだす。
「待った」
「なによぉ」
袖をひっぱられて新井木は顔をしかめた。昔から話の腰を折られると弱いのである。
遼子の母は、少しだけ笑った。昔を思い出したのだった。
今は自分よりずっと幼く見える新井木に、優しく優しく口を開く。
「昔の私より、今の私はましになりましたか?」
帽子を被りなおしていたずらっぽく笑う新井木。
「多分ね。一生懸命生きたなら、きっとそう」
「なるほど。それだけをずっと聞きたかった。ほな、いってらっしゃい。ああ、それと」
「なに?」
「うちの娘に、うちの伝統をガツンとな」
新井木は歯を見せてしなやかに腕を伸ばし、親指を立てて見せた。
「バッチOK!」