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/*/ 父は、釣りが好きであった。ただ魚が釣れた試しはなかった。 小さな舞は河原で石を転がしながら、父の背を見ていた。 「何を釣っているの?」 背中を見せたまま、父はそう言った。 「父は勇気を釣り上げるのをまっている」 父はそう言った。舞は、釣れない言い訳にしてもソーダイな話だと思った。 「釣ってどうするの?」 光る水面を見ながら、父は目を伏せた。 「どんな知識も知恵も能力も、自分から困る人に手をさし伸ばすことは出来ない。それをやるのは、人の心だ。それを勇気と呼ぶ。 人の心は勇気が統治し、勇気が戦う。勇気こそ王者。勇気こそが第一番」 父は自分を見つめる舞の顔を見た後、優しく笑った。 「勇気は釣れた。帰ろう」 父は、魔法のように長い釣竿をかき消すと、舞を肩にのせて歩き出した。 「そしておそらくは、遠いところで思い出すことになるだろう」 父は、歯を見せた。 「私は思う。 私に勇気がある意味を」 |
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