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/*/ でもトカゲにはゆめがあったのです。こわれもせず、ふうかもせず、めをつぶればいろあざやかによみがえる、そういうゆめが。 速水はそう言おうと思って、教室で一人読書をしている舞の前に立った。 「どうした?」 「いいだろう。芝村は戦おう」 「ああ、ええと……」 「ああ、いや、予想がね」 「なんの予想だ?」 速水は笑った後、やっぱり自分の柄ではないと思いつつも舞の事を案じて口を開いた。 「そうだね。それよりも、みんなが君の悪口を言っているよ。変だって」 「なんで?」 そして舞は、すまして言った。 ああ、この人は自分を変えようなどは夢にも考えてない人だ。自分が変るより世界が変わるほうを当然と考えている。 速水は、
呆れた後、感動した。究極の自己中心型だ。地軸が頭の上を通っている。
俺が世界にあわせようと努力しているのが変に見えるくらいだ。 「まさかそなた、自分と同調しない人間を全部殺そうと思っているのではあるまいな」 舞は、ふふんと笑うと、上機嫌ですまして言った。 「そうだろう、それがいい。自由には不便もあるが、結局のところ、それでも自由がいいのだ。……夜がくれば朝がくるように。
人は夏には冬のことを、冬には夏のことを思い描く。私は人間が卑小である故に、それを愚かだとは思わないが、
だが夏に夏の文句を言うよりも、花火大会に出掛けたほうがよいと思う」 「私は思う。世界のあるべき姿は、今より少しだけいい世界だ。その世界は、相変わらず私に陰口を叩くだろう」 「まったくあの人は勝手過ぎます」 言えば目立つと思ったが、速水は、顔をあげて口を開いた。 「僕は思うんだけど、世界のあるべき姿は、今より少しだけいい世界だよ。その世界では、 相変わらずあの娘は変なままだと思うけど」 個人的には痛く感激した言葉の受け売りだったが、滝川や壬生屋にはあまりきかなかったようだった。 交互に迫られる。 「でも」 速水は、それ以上舞の弁護をすることが出来なかった。 /*/ 速水は、その日、たくさん訓練した。 なにが一番得なのか。俺はそう思わないが、あの娘は相当嫌われている。そして軍隊で嫌われるというのは、 自らの命を縮めることに等しい。弱み探しに根掘り葉掘り調べられるのも厄介だ。 いっそあの娘から離れるか。 ……糞。 訓練というのかそれとも別というべきか、サンドバックを叩くのをやめた速水は、汗の中で額を壁につけた。肩で息をする。 これ以上何を望むんだ。復讐か。いいや、俺は生き残りたい。ただそれだけだ。 速水は、目をつぶった。 あの娘をかわいそうだと同情できれば、哀れむことが出来たなら、そのまま、目をそらすことも出来たろう。 だが、その娘は不幸そうではなかった。 幸せと幸運はイコールではない。すくなくとも、あの娘にとっては。不運で不運で不運でも、 あの娘は幸せに生きることも出来るだろう。 運命に挑む瞳の少女。自由が好きだと言った。それを盲信しているようでもなかったし、 不利益を受けているようにも見えた。 それでも好きだと言った正義最後の砦と書く少女。 俺はどうだ。幸せと幸運は、イコールなのか。今は幸運だ。だが俺の気持ちは幸せなのか。 「夜がくれば朝がくるように……か」 それを堂々と言うことをうらやましく思うとは、俺は変態だったのか。 |
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