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/*/ 鳥の声だった。 違う。この声は…… 「それは世界の総意により、世界の尊厳を守る最後の剣として、全ての災厄と共にパンドラの箱に封じられていた災厄の災厄。 自ら望んで生まれ出る人の形をした人でなきもの」 ブータは己を呼ぶ声に目を醒ました。 その肩に、鳥乙女が居るような気がした。 自分の隣に、上着を脱いだ少年が立っている。自分と同じように、巨人の肩を見ていた。 「芝村さん」 舞は、練習用の複座機の肩に座ると、首周りの調整をしていた。 「じゃあ、芝村」 「遅刻するよ。学校、いこう」 舞は、複座型の頭をなでるように叩くと、危うい勢いで整備台まで飛び降りた。 巨人の絶望の叫びが小さくなっていた。 ブータは髭を震わせた。あの人間には、巨人の声が聞こえるのだろうか。 そんな風には見えない。 速水は、自分の隣に並ぶブータを見下ろすと、にっこり笑った。 階段を降りながら、舞は口を開いた。 「捨て猫が多いだけだ。自分の食う分が減ると、遺棄するペットも増える。海外では捨てるのではなく安楽死させることも多い。
どちらが動物にとってマシなのか……いや、この場合は身勝手なのは同じか」 舞は、猫を見ないようにして背を向けた。 ブータは隣の少年に向かって鳴いた。 ブータがうなずくと、速水は笑って上着を着た。遅れないように舞についていく。 舞はそういうと、自分の財布を速水に投げて寄越した。 「そして、芝村はやれるだけはやるだろう。いつもの通り」 その逆はあるかも知れないが、君を呼び捨てにして、他人にさんづけする気なんか一切ないと速水は思ったが、 言えばさらに何故だと言われると思ったので、速水はあいまいに笑うだけにした。 舞は、何を思ったのか分からないが、何も言わなかった。 「よかろう。千年もすれば分かることだ」 速水は、舞のために天幕を手で引いて出口を作った。舞が通るように。 舞は、吹いた風のために閉じた目をうっすら開いた後、謡いながら今日も堂々と道の真ん中を歩き始めた。 おそらくは一生そうであろう。それはただ一人からなる正義最後の砦の女主人であり、世に覆う暗い企みのことごとくと 戦うために乱舞する一筋の光でもあった。 速水は少女と道を歩くというそれだけで嬉しく、にこにこしていた。 「そう言えば、さっきも歌っていたね」 舞はそう言った後、速水だけに分かるような笑顔を見せた。 速水は、今、笑ったと気付いて嬉しそうに笑った。 速水はにっこり笑った。罪のない笑顔だった。 舞の目が細められた。次の瞬間、速水の襟首に手を伸ばした。 「ほら、もう怒った」 /*/ 二人が、走っていく。 ブラインドを太い指で開きながら、その男はその様を見て爆笑した。その動作で暗い部屋に光が射し込んだ。 「ぶははは、見なっせ、あん二人、おもしろかねぇ」 「なんね、二日酔いね」 「はあ、お前変態ねぇ」 すみれ色の瞳を向けて、男は太ったほうを見た。 「それにしても、お互い芝村の手下はたまらんねぇ。きちー、だりぃ」 |
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