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/*/ あしきゆめに利する夜を呼ぶ、絶望的に赤い夕日を見ながら、老王は城を包囲するように布陣する幻獣の軍を眺めていた。 時折、老王が立つ物見の塔へもあしきゆめが矢を放ったが、老王はそれを無視した。 王は、皺深い目尻を下げると、虚空に物を言った。 「これ、アー」 影が、王の背中から動き出した。 王は楽師アーを見ずに夕日を見た。 「戦いは、いよいよもって苦しくなってきたの」 老王は笑った。 「アーは、子供が好きなのだな」 老王は、にこりともせずに落ち着き払って言うアーを笑った。 「七人にして一人の父を持つ者が生まれると星が告げている。おぬしは父の一人かも知れんな」 老王は目をつぶると、開いて、口を開いた。 「いけ。アー。己の思う最善をつくせ」 もはや残っていたのは声だけであった。 老王は一人笑うと、物見の塔を降り始めた。
城の前の跳ね橋でじっとしているブータを、多くの者がいぶかしんだが、とはいえ誰が見ても魔法の大猫であるブータを
誰も触れようとはしなかった。 ブータは目を見開いた。その隣に気配がした。 「来たか。友よ」 からかうような声に、ブータは真面目くさってにゃーとないた。 「あの王が死ぬまで、地べたはいのふりすると思っていた」 いつのまにか、一人の楽師がブータの横に立っていた。 「最善をつくそう。運命を決める火の国の宝剣も照覧あれ。地を覆う暗雲を払い、我が手で我が子を守ろう。 ここより先は俺の時間、伝説の時間だ」 「また子を増やしたか」 青の青は、不敵に笑った。 「そういう顔をするなヌマ・ブータニアス。いっておくが、次の時代、次の次の時代、次の次の次の時代で シオネアラダを守るのは、俺達ではないぞ、俺達の子だ」 「次を考えるのもよいがな、青よ。この戦況では次がないという可能性もあるぞ」 そう言うブータを見て、青の青は歌うように言った。 「未来がなければ今に意味はないのだ。友よ。未来にどう繋げるかだけが重要なのだ。今は一時の腰掛だ。 過去はただの思い出なのだ。我らよりも、オーマよりも、アラダよりも、もっと重要なものがある。……それは明日の微笑なのだ。 明日誰かが微笑むことが重要なのだ。私は確信する。光の軍勢は最終的に、ただそれだけの為に剣鈴を取ることになるだろう。 我らこそは未来の護り手として、人の記憶に残るのだ」 「また未来とやらか。お前は子供と未来があればそれでいいのだろうが、だがそんなものは戦の役には立たぬ」 青の青は、笑った。胸に掲げられた燦然と輝く青い宝石を見せる。 「だが青はここにいるのだ。友よ。世がどうであろうと、青はいる。青の居る所が未来のあるところだ。 剣や矢が多く置いてある場所が、未来だなどと思ってくれるな」
速水の胸に下げられた青い宝石が燦然と輝き出した。 機体に貼りついて訓練をしていた速水は、鉄の階段をかけあがる軽い足音に心を躍らせた。いそいそと振り返り、 この整備テント、正義最後の砦の女主人を迎えにあがる。 「おかえりなさい」 階段を上がってきた舞は、速水の顔をまじまじと見た。 不思議そうなつもりのようであった。 「……お遣いではないのか?」 どうしてそれを知っているのと、速水は頭の隅で思わなくもなかったが、それよりも滝川についた嘘を知られたことに、 速水は激しく動揺していた。なぜ動揺しているのか、自分でも分からない。 「あ、あれは」 舞はそうかと言う風に軽くうなづくと、速水の横を通りぬけて機体に近づいた。 「訓練してたんだ」 「い、一緒に訓練しない?」 速水は、恐れていることが現実になったと思った。 「い、委員長のことが好きなの?」
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