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/*/ 私にはまだ名前がない。 私はまだ生まれていない。 私はなぜここにいるか分からない。 だから、でも、しかし。 私は思う。 私に心がある意味を。 /*/ //第6世界時間 2111年 8月4日 20時08分 機械でできた上半身は、腕を動かして下半身を捕まえると、接続を開始した。 /*/ 窓の外に映る人型兵器の動きを見ながら、派遣パイロットのエルンスト・タキガワ大尉は宇宙海軍伝統の まずいコーヒーをうまそうにすすった。 今も必死に制御卓に座ってコントロールを回復しようとする技師に声をかける。 しばらく窓の外を見やった後、大尉は何が面白いのか、微笑んでみせた。 「それともいっそ敵に聞いてみるか。向うでも分からないなら、こりゃ本物だ。宇宙人が攻めてきたか、
研究中の人型機械に魂が宿ったか。どっちにしても戦争やっている場合じゃないってことになると思うが」 「昔を懐かしむネーバルウイッチかもしれない」 大尉は笑うと、まずいコーヒーをすすった。 /*/ 善行は、部下のことで頭を痛めていた。一難去ったらまた一難。一番問題を起さない優等生だろうと思っていた速水が 授業に出てこなくなったのである。 「エスケープ、ですね。普通の学校なら軍法会議もないので、それでいいのかもしれませんが……」 善行は、舞を見た。舞は難しい表情をしている。 まったく子供というものは扱うのが難しい。 善行は、首を振ると、まずい事で有名なパック入りコーヒー飲料をうまそうに飲んでいる滝川を見た。 「俺じゃ分かりませんよ。あいつの家も行ったことないし」 /*/ 場面は変る。 研修会の最前列できっちり化粧して周囲に微笑み、綺麗なお姉さんの魅力を振りまいていた原は、バッグに入れている 携帯電話を取り出して、液晶表示を見て顔をこわばらせた。 不意に表情をにこやかに戻し、手を小さく振って大股で廊下に出る。 「あら、この電話番号覚えているなんて意外だわ。それとも余裕?」 /*/ 場面は戻る。 善行は露骨に嫌な顔をした。 「何を言っているんですか。仕事の話です。……はい。はい。わめき終わったら、帰りに手分けして探して欲しい人がいます。 ……いや、御期待に添えず申し訳無いですが、速水君ですよ、……早く言えって、……いや、いい。ええ。お願いします。 探して欲しい所はゲームセンターとその周辺です……ゲームセンターの場所は」 善行はため息をつくと滝川を見た。滝川は口を開く。 「我々は味のれんと、周囲の捜索を行いましょう。滝川君、ちょっと親父さんのところに行ってきてください」 /*/ 場面は原の所へうつる。 「別に貴方を絞め殺したりしないわよ」 「え、ええ、いやまあ。その、どう、しました?」 オレンジのバンダナを巻きながら森は目を大きく開いた。速水君が? 意外な気がする。 それはさすがに岩田君に失礼では、と森は言いかけたが、確かにそれもそうだと思ったので、汗を出すだけで 声を出すことはしなかった。 原は壁に背を預けながら、片目をつぶって森を見た。森はそわそわしているように見える。速水に興味があるのか。まあ、
あの子ならお似合いよね、と思う。森は瀬戸口みたいな奴にひっかかるには純真すぎる。 森はすぐ顔が赤くなる性質である。この時も赤くなった。それを面白そうに見る原。 /*/ 一方その頃。 滝川は校門を出た所で途方に暮れた。 そんな奴だ。なにがあったのか知らないが、奴は戻る。と、思う。戻って欲しかった。世の中には一人くらい 優しい奴がいてもいい。 とはいえ、委員長の命令は絶対だった。滝川は折衷案を取ることにする。 一応味のれんの親父さんに声をかけて、それからそうだな。あいつのアパートまで行くか。 /*/ その一方。 森はビルを出た所で、途方に暮れた。 どうしよう、戻って聞こうかな。 でも、急がなきゃいけないだろうし、戻ってきて研修会出席者にまぬけだと笑われるのはいやだ。 うー。 森は考えた後、とりあえず出鱈目に探してみることにした。 /*/
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