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/*/ 整備テント。 ブータは、92mmライフル砲弾倉の上で寝そべっていた。 「ねこさんねこさん。そのふくをかしてください。あのね、あのね。せんたくしてあげるのよ。きれーになるの」 ブータは首を振った。 「だめ? たくさんおもいでがあるの?」 ブータはうなずいた。 「うんとね、えっとね、でもね。きれーなほうがいいのよ。ばいきんはあぶないの。むかしはただのおもいでなのよ。 いまはただのこしかけなの。おもいではたくさんいらないのよ。ここからさきがみえるだけでいいの」 ブータは、だがわしは歳を取りすぎたと言った。 ののみは悲しそうな顔をした後、亜麻色の髪を振ってブータを抱き上げる。 それは多分意味が違う。 だがそんなブータの反論も聞かず、強制的にののみはブータを持って一生懸命に走り出した。 /*/ シーンは、飛ぶ。 悩み深い中間管理職善行が、弾薬が足りない、パイロットは家出、ああ、困りましたねえと歩いていると、 猛獣と珍獣が格闘しているような盛大な音が聞こえてきた。なんだなんだと頭をひねり、顔を出す善行。 窓から顔を出した所は足洗い場だった。古い学校についている設備である。 「なにをやってるんですか……」 ののみは自身も泡だらけになりながら、うにゃーと言いつつ大猫に躍り掛かった。 眼鏡にかかった飛沫を親指で押しのける善行に、両手を広げて猫と戦うののみがいつになく真剣な声で言った。 「いいんちょもてつだわないとめーなのよ」 /* 思い出が、思い出が……ワシを置いて飛んでいく。 ジョウロは詫びを入れる気か、水を撒いた端から虹を作っていた。 「わぁ! にじだー。にじにぃ、てがとどくなんて、ゆめのようだねぇ」 善行は肩をすくませたが、何も言わなかった。そう、この子を着替えさせないといけない。素子はまだ戻ってないか? 誰に頼もう。 善行はそこまで考えた後、泡だらけの自分とののみを見、ぶるぶると水切りするブータを見て、急に愉快な気分になった。 傍に若宮がいないのが残念だった。 市電で前線に兵力を輸送できるような戦況なのに、我々は何をやっているのだと思ったのだった。戦時中にしては 豪華な時間の使い方じゃないかと考える。自分以上の苦労人、若宮にもこれを味わせたいと、そう考える。 善行の歪んだ審美眼は、自分を嘲笑った。 /*/ あれ、ワシ、こういう場面知っている。 濡れ鼠ならぬ濡れでぶ猫のブータは、ヒゲが早く乾くようにリューン達を使う歌を謡いながら、そう思った。 /*/ 冒険にして自由の天地である銀河を行く冒険艦。 ブータは一等航海士として、遠くオリオンアームの向うまで駆け巡っていた。 操舵手、エルンストがブータの姿を見て笑っている。 「今度という今度はやられたようだなぁ」 ブータがそう言うと、宙に浮きながら無重量空間にリューンの息吹を感じた。 「ありゃあ、親父さんをブラッシングするまで許さない勢いだと思うね」 後方に吹き出す船の推進剤が水の塊を跳ね上げる。そこに恒星の光が当たって虹の環を作った。 /*/ ブータは丸い目を真ん丸にして、黒目の面積を最大にした。 /*/ ブータはそのまま、ののみを見て、善行を見る。
ブータはとても大事にしていた思い出を、物にすがるあまり、自分が忘れていたことを自覚した。
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思い出して、袋からアップルパイを取り出した。
滝川はそうつぶやいた。
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