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太陽が昇る。
夜明けの街角に不自然なほど集まった人々。幻獣共生派。
彼らは次々と幻獣に変化しながら、前進を開始した。
だんだんと駆けだしていく。
瞬く間に道を覆い尽くすように現れる小型幻獣の群れ。その数、100匹ほど。
小型幻獣達は道を無視し、民家に侵入し、行く手に現れる人間達を次々と引き千切りながら狂ったように前進を開始した。
大きな通りに出る。道の先に戦車学校が見えた。
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微動だにしない士魂号複座型の頭部フェアリングに、木漏れ日のような光が当たった。
優しい素足が一つ。ゆっくりと巨大な肩に舞い落ちる。黄金の羽根が士魂号複座型の頬にふれた。
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整備テント内。
誰も見ていない士魂号の監視ディスプレイの電源が自動的に入った。
>・・・・boot
しばらくの沈黙。
>OK.
それは流れるようにディスプレイに文字を表示させると、一斉に整備テント中のディスプレイを起動させた。
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・
OVERS・OVERS
私はあと少しだけの勇気を補完する名前のないプログラム。
−this Omnipotent Vicarious Enlist a Recruit Silent System−
OVERS・System Ver0.89
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・
OVERS・OVERS
ディスプレイに燃え上がるような黄金の文字が打刻される。
生体モーターの駆動音。士魂号複座型はぶるぶる震えはじめながら、己を戒める数々のプログラムを次々と書き換えはじめた。
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//第6世界時間 2111年 8月4日 21時03分55秒
技師は、未だ主導権を取ろうとして四苦八苦していた。
あきらめて電源を切ろうかとも思うが、それでは悔しすぎる。
それに今の所、向うはこっちの室内気候制御系に手を出していないが、下手をすると攻撃をかけるかもしれないと考える。
あいかわらず面白そうにまずいコーヒーをうまそうに飲んで居る大尉に腹を立て、技師はこの日何度目になるかわからない説明を行った。
「存在しないメモリ領域から大量のデータをダウンロードしています」
「解析、できるか?」
「解析します。第7世界という存在しない記憶エリアからの大量データ転送です。エージェント=純粋意味オブジェクトに酷似した構造をしています」
「オブジェクトのサンプル抽出はできないのか」
「とりました。暗号化解除。波形データです」
「なんだ、これは音声データか」
「どうしますか? 大尉」
「再生してみるか。これ以上悪くならんだろう」
「再生します」
<にときにみちとちに<にときにみちとちに>
「なんでしょう。言葉のようにも聞こえますが。女の声ですね」
「美人の声だな」
「音で顔が分かるんですか」
「航空宇宙軍の大尉ともなるとな……。歌にも聞こえる。何千もの歌声にも」
技師の冷たい視線を平然と無視し、エルンスト大尉は腕を組んだ。
相手が何をやりたいのか分からない。
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難しそうに腕を組んで一人登校してきた舞は、……だいたいなんで速水が泣くのだ?……その瞬間、耳の奥で遠く、母の声を聞いたような気がした。
声など、一度も聞いたことがないのに。
では、母ではないなら、なんだ。
舞は、顔をあげた。多目的結晶にコールが入っていた。
(速水か?)
(僕を信じるなら、今すぐ逃げるか、急ぐかして。そっちに幻獣が近づいている)
(そなたを信じよう。逃げたとして追ってくるかどうかが問題だが)
舞は即答した。結晶の先で走りながら、速水はそれを嬉しく思う。
(たぶん、追ってくる)
(ならば選択肢はない。学校で戦闘したほうが被害は少なかろう)
(僕は今、そっちに向かっている。あと少し)
(場合によるが、待たんぞ)
(戦場で拾ってよ)
(分かった。急げ)
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//第6世界時間 2111年 8月4日 21時04分
「奴は日本月にアタックを開始しました」
瞬く間に日本月の防壁をすり抜け、ルートを奪った様を呆然と見ながら、技師は意見を修正した。
「どうやら日本月の攻撃じゃないみたいですね」
エルンスト大尉は腕を組んで笑った。
「こりゃ、いよいよ軌道連邦だの地球連合だのと言ってられなくなってきたな。これだけのハックする奴は、伝説級だぞ。
……どうする、俺らでは対処できませんと上に連絡するか」
「待ってください。……もう少しだけ。この工廠で私ができないなら誰がやっても降参ですよ。上に言っても言わなくても同じです
……奴は向うからこっちにデータ転送をかけました。相手の場所は日本月の製薬工場。でも……こ、これは」
技師は口をあけたまま、目を見開いた。
「これは大気圏内での実体弾射撃データです!」
「日本月は戦前、戦争に備えて多くの偽装工場を持っていたという話だ。その製薬工場はその一つで、地球降下作戦用の機動兵器を作ってたんじゃないかな」
「しかし、なんでこんなものを」
「使うからだろ」
「ここはイオですよ。人の住んでいない木星をのぞけば、大気がある場所と言えば近場じゃタイタンくらいのものです」
「じゃあ、土星まで行くんだろ」
面倒くさそうに大尉は言った。面白い話をしている時に水をさされたのを露骨に嫌がる表情である。
技師はそれを無視して頭を振った。
「今転送かかっているものは地球の大気組成、Gのもので、タイタンのとは違います」
「あー、だったら地球で使うんじゃないか」
「どうやってですか」
実務的なことには甚だ冷淡な大尉の反応に、ついに技師は怒って大尉の手からマグカップを奪った。マグカップに残ったコーヒーを飲んだ後、
しまったという顔をする。まずいのだった。
大尉は肩をすくめる。
「俺に聞くな。とにかく、こんな芸当は我が軍のかれんちゃんでも無理だ。ついでに言えば、下手すれば敵味方どころの話じゃすまんかもしれん。
俺はすぐ上に連絡する。お前さんは監視を続けろ。まったく……いや、しかし」
「なんですか」
急に笑顔になった大尉を、技師は気持ち悪そうに見た。どうもパイロットの考えていることはわからない。今時、人の腕で宇宙械を
操作しようとするんだから、当然かもしれないが。
大尉は上機嫌で言った。
「いや、俺のひいじいさんの時代には冒険や浪漫があった。それが戻ってきたみたいな感じだな。ええ? 嬉しいことじゃないか、
世の中にはまだまだ驚異が満ちているぞ。太陽系内で暇つぶしに争う必要もない」
「戦いを稼業にしている人の言葉とは思えませんね」
「俺の職業は格好いいメカに乗ることだ。他はおまけさ。なくてもいい類のな」
「どうして大尉がこんな辺境に流されてきたのか、なんとなく分かりましたよ」
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