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/*/ 舞は、正義最後の砦の女主人は、幻獣の出現に対応するようにテントに入ると、自分の士魂号に声を掛けた。 「起動用意」 複座型はずっと前から準備していたかのように即座に反応した。主ハッチを自動開閉し、計器類を一斉に起動させ、必要な情報を同時表示する。 舞が座席に身を滑り込ませ、6点式シートベルトで身体を固定する時間も惜しむように、複座型は出撃手順の半分を端折って 必要最小限の認証を舞に求めた。 舞が無造作に左手の多目的結晶を接続接ぎ手にかざす。認証は全て許可された。 舞は小刻みに震える左手を握りしめた。炎のような瞳を向けて、自分が行動しないことで失われる沢山の可能性を思った。歯を見せて怒り狂い、 行動を開始する。 そしてウォードレスコードを一気に引き出しながら、世界の帝王のごとく凛々しく口を開いた。 /*/ 士魂号複座型突撃仕様は、全身の人工筋肉をクールからホットに切り替えて腕をあげた。自らを吊り下げるハンガーを握り、 引き千切るようにその最後の戒めから抜けだした。 わずかな距離を落下し、大げさなポーズで着地する。 レーダーでもNBC反応でもない舞の直感と、速水の心臓の鼓動の音に導かれ、士魂号は歩きだした。 ジャイアントアサルトライフルを装備する。今は水冷カウリングが装備されていないため、普段は隠されている三つの銃身が突き出たままの 20mm機関砲である。弾倉には対空榴弾を選択する。 後ろ腰には、主砲、92mmライフルQF。弾頭には近接散弾を装備した。
真新しくも凛々しく士魂零四と描かれたその機体は、正義最後の砦と大書された看板を掲げるテントを出ると、動きをより自然なものへと一変させた。 それは儀式のようであった。砦から自らの意志で出陣した瞬間に、その士魂号はパーソナリティを持たないただの兵器から、あしきゆめと 永劫に戦うよきゆめの一つ、伝説の巨人に生まれ変わったのだった。 士魂号は、頭上に向かってジャイアントアサルトを試射した。
瞬間200tを越える脚力による接地圧で踏み抜けるため、士魂号が走る校庭には円形の土煙が立った。それを前に進む装甲が押しのけ、 発生する気流によって土煙が複雑な形に変化する。 士魂号は自己で運動プログラムを修正した。安定した砲命中率を得るために、かかっている上半身の上下揺動制限を外し、 上体を起してハイピッチに切替えた。 砲を撃つ実用兵器としての限界を超えて速度が出始める。 同時に士魂号は最初の旋回で無線アンテナからデータを受信、砲撃時の複雑な上下揺動を補正するプログラムを遠いどこかからダウンロードしはじめる。 ついに士魂号複座型はジャンプを開始した。家々を飛び越え、着地し、また跳ぶ。神々からそれを見れば、その背にリューンの光で 翼が生えたように見えた。 /*/ すこしばかり早くこの地を訪れた燕神族の一柱が、翼を広げて疾駆する巨神族の侍を見たのはこの時だった。 燕は翼を広げた。巨神の跳ぶ風を受け、高く跳ね上がり、先導するように飛びはじめる。 /*/ 速水が瀬戸口に遅れて曲がり角を曲がって表通りに出ると、そこには小型幻獣達が道を占拠し、自分の方へ突撃を開始していた。 思ったより早いな。そう思いながら、道の真ん中に出た。舞に見つかりやすいように。 そして速水は、絶望的な状況で悠然と手を伸ばした。舞が、その手を取れるように。 そして言った。 速水は迫る幻獣を前に笑った。 その頭上を、士魂号複座型が飛んでいたのだった。 /*/ 速水は頭上を見上げると、士魂号複座型突撃仕様が文字どおり飛ぶように跳躍する様に、瞬間見とれた。 止まっていればなんとも滑稽な巨人であるのに、寄れば恐怖を感じ、今、戦う時は雄々しさと美しさを感じる。 速水は目をとじた。 燕を引き連れて士魂号が着地する。突風に揺れる速水。士魂号は薄い装甲板が張られた左手の指を広げると、次の瞬間、速水をキャッチしていた。 また俺の勝ちだ。速水は勝利条件を胸に思いながら、そう思った。それにしても、ガンナー席から良く動かせる。そうか、まだその辺の艤装は
練習機仕様から改造されてないのかと、次に考えた。 手をかける。懸垂する。速水の脚が空を泳ぐかのように揺れた。そしてなんとか、機体の中に入った。 「ごめん、待たせた」 速水の声に返事はなかった。舞は全感覚投入していたのだった。 ウォードレスコードを引き抜き、人工神経繊維を露出させると、機体に常備されている即応パックの中から鈍い針を取り出した。
揺れる機体に苦労しながら、針の中に人工神経繊維を入れ、直接首筋に突き立てる。訓練は何度もしていた。目をつぶってもできるぐらいに。 正常に神経接合されていることを確認すると、即応パックから今度は無針注射器を取り出した。腕にあてる。 心の中で声をあげる。 無針注射器の引き金を引いた。 身体を一度痙攣させると、速水は意識を失った。永劫の星空が見える。 /*/ 士魂号複座型はさらに動きを変えた。一瞬先の読めないくせに動いてみれば自然な動作から、さらに複雑な動きをスタートさせる。
そう説明しながら、いつのまにかやってきた善行は原に手をさし伸ばした。 「実戦で使われる士魂号というのは、どうでしょう。開発関係者として見ると」 「どんどん動きが良くなっています。見るたびに動きが洗練されていく」
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