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リターントゥガンパレード

第19回 SIDE−B “メッセンジャー”

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 猫は、手紙をくわえて走り続ける。

その猫は、三毛猫だった。猫の王から密書をわたされて、旅をしているのだった。
猫にしか分らない道を通り抜け、星空を見上げて、行くべきところを見定めた。

 走る、走る、草原を走る。
猫の親戚である01ネコリスたちが併走し、あるいは前脚で至近に開かれる門を指し示した。

 走る、走る、月面を走る。
歌を歌うカグヤに抱かれ、金魚鉢を頭にかぶった坂上先生と旅をし、はるかな地球光を見上げて、行くべきところを見定めた。

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時は、飛ぶ。2週間ほど前になる。

 その昔、物置だったその小屋には、今、かまぼこ板からなる小さな表札がかけられていた。

こんなに暗い夜でも、その表札の文字の一部は、読むことが出来た。
どんな闇の中でもそれは読めるだろう。なぜならそれは星の光を集めて書かれたのだから。

“正義最後の砦 事務所”

 昼間は善行が座る隊長室の椅子に、善き神々の長老たるブータ猫が鎮座した。
毛がふかふかで目が大きい、立派な立派な戦神であった。

夜の間、そこはブータの定位置であった。
 木の葉に神々が書き込んだ戦況が描かれ、野戦地図が広げられた。

ひっきりなしに猫が出入りし、鳥神族が得た航空偵察の結果を書き加えていく。
瞬く間に地図の上に戦場が描かれていく。

同じく加藤が座る席で軍専用回線電話を使う犬神。
猿神、羊神、ヤギ神、蝶の神々が並んで軍議を行い、戦線を押し上げるプランを練る。

小屋の外では巨大な神木が枝を広げ、この小屋を守ろうとしていた。
入り口ではストライダー兎が愛銃を磨き、不意の侵入にそなえている。

その足元では様々な虫から選抜された楽団が、高らかにすこぶる景気のいいマーチを鳴らしだした。

“空を見上げよ その名を高らかにしらしめよ 我らが奉じる大旗の御名を”

「それは我らの胸の中」
ストライダー兎はそうつぶやくと、暗い空を見上げた。 絶望的な暗さだが、星がいくつか輝いていた。
今までのどんな時よりも、それは光り輝いていたのだった。

兎はそれでなにもかもに満足すると、神々が滅ぶ最後の、楽しい楽しい戦いを勇敢に演じることにした。

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 ブータは朱肉に肉球を押し付けると、白い紙にぺたんと肉球を押した。
手形ならぬ前足形ができる。爪を伸ばし、紙に突き刺すと、次の瞬間、それを宙に放った。

仔猫の気分が抜けきれていない猫神族の一柱が、それを空中でキャッチした。
 そして外に駆け出して行く。

ブータが肉球を紙に押し付けるたびに、猫神族が四方八方に散っていった。

「援軍は、来るでしょうか」
「知らん」

不安そうな子猫の顔にブータは、晴れやかに笑った。言葉を続ける。

「だがまあ、ハードボイルドペンギンだけでも来るだろうよ。世界の最後の日でも自分のやることをやるペンギンだ」

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 こうして、猫は、手紙をくわえて走り続ける。
世界と時を渡る門を01ネコリスと共に渡り、時を遡り空間を越え、四方八方今昔未来、往古来今謂之宙、四方上下謂之宇といった感じで手紙を届けにいった。