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/*/ 準竜師を見る弟は、準竜師が好きではない。思い出し笑いか、不意に笑ったのも嫌いだったし、姉の背中を見る目線もいやだった。危険な匂いがする。 いつものように絶大な確信をもって花園で優しく微笑んでいるような姉、真紀とは違い、弟、勇気は自分にも世界にも他人の善意にも確信が持つことができていない。準竜師が姉にひどいことをする可能性を考え、勇気は食事しながら身構えていた。確信があるとすれば唯一つ、誰よりも速く姉を守るのは自分だという確信だった。 勇気は姉を全肯定する。この幼い少年は、真紀姉ちゃんこそは世界最強にして世界最善だと思っていたし、その行動の全部こそが正しいと信じていたが、だからこそ周囲を警戒していた。美人で人がいい姉ちゃんをきっとみんなは狙っている。 準竜師は勇気に気づいたようだった。 ひるんだ顔の勇気に、準竜師は優しく言った。 迎え撃つぞと、顔をあげる勇気。 真紀姉ちゃんはすごい。理屈も常識も遥か彼方の世界で自分の好きなようにやって生きている人だと、勇気は常々見せ付けられ、またそう思っている。他の誰も、父母すらも現実とか常識を恐れて言わないが、勇気はだからそ、自分だけは素直に思ったことを言おうと思っていたのだった。姉ちゃんはすごい。子供でも遠い噂に聞く芝村がどういうものか知らないわけではないが、そんなものでは姉には足元にも及ばない。勇気は、心の底からそう思っていた。 準竜師は笑って見せた。 幼い時の舞が、私はエヅタカヒロの娘だと言ったことを思い出したのだった。突然親切になる。 死ぬよりも、悪く言えば体面、良く言えば誇りを優先させるのが旧家というものである。準竜師は旧家の出らしく他家の男子に対して配慮をした。 準竜師は本当に嬉しそうに笑った。 真紀とその両親が笑い出した。 準竜師は、空を見上げた。おお、なんという曇り空。 「まあ、俺が素敵なのは確かだな」 真紀が本当の事に気づいてびっくりするのは、今しばらく後の話になる。 /*/ 準竜師の動きは外見に比ず、素早かった。 準竜師は部下にも上機嫌に微笑んで自分の席に座ると、山のような書類を決裁する前に今だ多数設置されている黒電話から防諜番号を文字通りダイヤルして、傘下の私兵部隊に電話した。 「俺だ」準竜師は受話器に言った。 この頃、初陣前で部隊はあわただしかったが、善行だけは静かだった。 「善行。以前、そなたはどんな人間でもいいから人員が欲しいと言ったな」準竜師の声。 怖い人の優しい声はやっぱり怖いですねと埒もないことを考えながら、善行は意識を集中する。スパイでも送るつもりか。いや、こんな政治的に意味のない員数外の部隊にそんなものをやっても意味はない。ならば、親切だろうか。あるいは新型の成体クローンの実験か。 「どういうおつもりですか」善行は、結局素直に聞いた。鬼と呼ばれた戦争の天才善行は、その一方で陰謀のほうはさっぱりである。 せめて整備の腕は保障する、くらいは言って欲しかったと善行は思ったが、まあ、整備員が足りないのでとにかく良かったと思った。初陣が終わったら、素子に押し付けよう。 |
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