●太陽の塔 森見登美彦著
何か主張があるようで実は確たるものは何もないような、空しくて何もないようでいて何か大事なものがあるような気もしないでもない……。
こういう曖昧な、無駄に力だけが空回りしてる風なもの、学生の頃は大好きだったのは確かだし、たぶん僕自身も少なからずそんな傾向があったようにも思う。
仔犬が自分の尻尾を追いかけてる姿は、無邪気で可愛いし、たぶんその行為で自然に体力もついているのだろうけれど、その間は激しく動き回ってるわりに一歩も前進していない。
そんな感じに似てる。
もう今はダメだな。
これを面白くなるまで待つ「根性」やら「体力」がない。
ということにふと気づいて、ちょっと寂しい。
若い方にはお勧めします。
●レイン・レインボウ 加納朋子著
高校の女子ソフトボール部の卒業生の7年後。
主婦もいれば、さまざまな職業についているチームメンバー、そのひとりひとりの日常が連作短編になっている。
ディテールが実にうまい。
加納朋子さんが僕の前に詐欺師として現れたら、僕は彼女のウソを全部信じて、ケツの毛までむしりとられてたろうよ。
●紅無威おとめ組 かるわざ小蝶 米村圭伍著
これは面白かった。
娯楽小説としての完成度が頭抜けています。
今後は、米村圭伍さんのファンを公言します。
あ、それとこの本を読んで「章の構成」の基本テクニックがなんとなくわかりました。
●魔法飛行 加納朋子著
三編の短編+謎解き用の短編。
その間に三者の手紙が挟まっている構成。
短編はいずれもそれなりに気が利いていて読んでいて楽しい。
が、間に挟まっている手紙のひとつがあからさまな伏線で、最後まで引っぱる謎になっている。
これが完全放置の解けない謎なので、気になってしょうがないストレスになる。
なかなかリスクの高い構成だ。
で、最後の謎解きなんだけど、これが謎解き自体は論理に矛盾はないのだけど、なんだか微妙に決まってなかった。
どれくらい微妙かといえば、オリンピックの体操選手が難度の高い技で華麗に鉄棒の演技を続けて、最後の着地で一歩だけ前につんのめったくらいに。
いや、それでもハイリスクに挑戦した挙句の、一歩つんのめったくらいの感じだ。メダルは確定のレベルだし、万雷の拍手だとは思う。
それに、一歩つんのめったが、選手は笑顔。そんな感じのハッピーエンドだったしね、好きだよ、こういうの。
●おんみつ蜜姫 米村圭伍著
あ~も~ね~、イヤになるくらい面白かった。
僕が子供の頃に***ごっこと言えば、***に入るのはウルトラマン、古くても月光仮面や鉄腕アトムだ。
だけど、ひとつかふたつ前の世代なら、鞍馬天狗とか笛吹き童子とか赤胴鈴乃介あたりになりきって遊んでいたのだと思う。
たぶん、ここで再現されているのは、そのころの***ごっこの楽しさだよ。
都合がよすぎるとか、ありえんだろうとか、そういう無粋な文句は、圧倒的な楽しさの前にまったく歯が立たないことがよくわかる。