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仕事場に粉雪が舞う
桝田 省治

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 桝田さんちには1階と2階にふたつのリビングルームがある。
 二世帯住宅というわけではない。
 家族の人数分部屋を作ってもスペースが余っていたので、当時はやっていた多目的ファミリースペースなるものを業者の勧めで設けたのだ。
 で、2階のほうのリビングを今は僕が仕事場に使っている。
 もともとが多目的スペースであるから、夏休みには子供の工作製作現場になるし、雨の日には物干し竿二本分の広い室内物干し場に窓際が利用される。
 本日は雨。横を向けば洗濯物が並んでいる。
 なにしろ子供が3人なので、日々洗濯物が量産される。
 部屋は十分に広いから、若干部屋が暗くなり湿気が増える以外は気にはならない。
 照明とエアコンでかなり改善できる。
 だから、これはいい。
 だが、今日はこの部屋に粉雪が舞っている。これは相当に気なる。
 粉雪の正体は、おそらくは娘のズボンに入っていたポケットティッシュだ。
 気づかずに洗濯機を回してしまい、「あ~ぁ」と思いながらも妻は洗濯物を干したのだろう。
 で、衣類に付着した粉々のティッシュが部屋が乾燥し、洗濯物が乾くに従い、はがれて部屋中を漂っている。
 六月の雨の日に部屋の中を舞う粉雪……なかなかシュールな光景だよ。
 きっと掃除をするのは僕だな。

 雨がやんだのでとりあえず洗濯物を外の物干しに移動した。
 今、掃除機をかけるべきか、それとも夕方洗濯物を取り込んだのち、ティッシュが落ちきってからやるべきか、そこが思案のしどころだ。

 ――てなことを考えながら、僕が小一時間何をやっていたかといえば、庭の草抜きだ。
 雨で土が柔らかくなっていそうだと、洗濯物をベランダの物干しに移していたとき、庭を見ながらふと魔がさしてしまったからだ。
 桝田さんちの庭は、娘より背が高い雑草が繁茂し、まさにジャングル。自分んちの庭の隅まで行けないという笑えない状態だった。
 なんだか今日は、三日分くらい働いた気がする。
 とりあえず、ティッシュの掃除は後回し。

――などと余計なことを考えず、さっさと掃除すべきだった。
 ティッシュが床に貼り付いて取れなくなってるよ……。
 判断を先延ばしにした分だけ、わずかずつ確実に状況が悪化するなんて……よくできたゲームみたいで、ちょっと面白い。
 ここで徹底的に掃除すべきか、それとも目につくところだけざっとやって仕事に戻るべきか。
 悩みは深い。