●リカ 五十嵐貴久著
出会い系サイトで知り合った女性は、実は……!?
といった感じのいわゆるホラー小説だ。
僕はホラーというジャンルがまったく肌に合わない。
たいてい読んだり、観たりして後悔する。
それでもなんだかんだで、このジャンルの作品に定期的に手を出すのは、ごくごく稀ではあるものの、「おいおい、そこまでやっちゃいますか」とツッコミたくなるような、笑えるくらいぶっ飛んだ発想の作品にたまに出会えるからだ。
本作に関して言えば、2回くらい噴いた。
400ページほどで読書に費やした時間は正味1時間くらいだろうか、4回くらいは笑えないと、元が取れた気がしないな。
ちなみに僕が2回笑ったうちの1回はいわゆるオチの部分。
ただし笑った理由は、あのオチ自体ではないし、その発想の斬新さでもない。
あのオチをやるためにいくつもていねいな伏線を引いた、まじめな作者の態度に、「バカだな、この人」とニンマリ。
くだらないことをまじめにやれる人は好きだ。
読んだことはないが、たぶんこの作者は、傑作かどうかはともかく、常に一定以上の面白いモノを書けると思う。
●退屈姫君2、3 米村圭伍著
正確なタイトルは
「退屈姫君 海を渡る」
「退屈姫君 恋に燃える」です。
歴史の先生でも知らないような知識に基づいた時代考証をしておきながら、「***という記録があるので、本当は*年早いのだけど、そのほうが話が面白いので、すみません、わざと間違えます」と読者に断わりを入れ、謝ってから、話を進める、そういう奥ゆかしいのか図々しいのか、よくわからない米村圭伍先生に、僕はもうメロメロ(死語)
このシリーズ、あと1冊で終わりらしい。
正直読みたくない。
人生の愉しみの0.1%くらいが失われてしまいそうだから。
●青空の卵 坂木司著
売り文句は「引きこもり探偵」ということらしいけど、引きこもりの中ではそうとう軽度の部類で、そこはちょっとウソだ。
ミステリーとしては、ストーリーも特段目を見張るものはない。
だが、読んでよかった。本作の中の空気が心地がいい。
何がいいかといえば、キャラクターだろう。
犯人も含め、登場人物全員が、どこかしら心に傷だか穴だかがある。
他人とかかわりたくないのに、一人では生きていけない。そんなタイプだ。
そのせいで、全員が無器用で懸命で優しく切ない。
一番聡明なはずの引きこもり探偵も同じ。
本作の語り手の視点までもが同じ。
ある意味、全員が引きこもり属性と言ってもいいかもしれない。
そんなキャラクターばかりが登場し、その連中が絡むのだから、実に頼りなくフワフワした感じ。
それが実に心地いい。