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ポストの中に蜂
桝田 省治

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 郵便物を取り出そうとポストのふたを開け、中に手を入れたら、まさしくチクリという痛み。
 そして、ポストの中から悠々と足長蜂が飛びたった。
 なぜポストの中に蜂が入っていたのか、それはこの際どうでもいい。
 親指の付け根あたりから徐々に痛みが増していた。
 とりあえず、刺された部分をさがし、前歯ではさみ毒を抜くべく思い切り噛む。
 そうしながら、トイレ(玄関から一番近い給水ポイント)に走り、流水で患部を洗う。
 だが、痛い。
 ふと思い出したのが、おしっこで洗うという民間療法。
 足長蜂は、酢だったんじゃないか? とも一瞬思ったがとにかく痛い。
 ちょうどそこがトイレであったから、手におしっこをかけることにする。
 しかし!!
 郵便物を取りに行く前にトイレに行ったばかりだ。
 これがなかなか出ない。
 それでもなんとか絞りだすようにしてチョロチョロとかける。
 結果的には、おしっこが効いたとはあまり思えないものの、痛みは不思議なくらい急速に治まった。
 これで雑菌なんかに感染した日には笑い話にならないので、再び手を洗う。
 洗いながら考えたこと。

 たとえば、恋人と山奥にキャンプに行ったとしよう。
 山道の途中の茂みでおしっこをした直後に蜂に顔を刺された。
 近くに水場はないし、効きそうな薬の持ち合わせもない。
 そこで、蜂に刺されたときには、おしっこをかければいいという民間療法を思い出す。
 もう痛くて痛くてしょうがない。
 頭にあるのは、おしっこをかけさえすればこの痛みから逃れられるという強迫観念だけだ。
 背に腹は変えられないと恋人に
「私の顔にあなたのおしっこをかけて!!」
 と頼めるかな?
 逆はどうだろう。頼まれたときは?

*追記
「ある日突然日常に起こりえる恥辱プレイ」というテーマでまとめた短編集、需要はあるだろうか?
 ちょっと読んでみたい気はするなあ。