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ジョン&マリー ゲームデザイン脳
桝田 省治

 朝から水玉さんのイラストが数点送られてきて嬉しい。

 といわけで、【ジョン&マリー ふたりは賞金稼ぎ】(ハヤカワJA文庫 2月末発売)の話。
 大き目のRPGのシナリオを依頼されて書いていたとき、世界を救うとか魔王を倒すとかじゃなく、もっと身近で個人的な理由で冒険に出るほうがリアルだなとふと思った。

 で、誰にでもわかる一番身近な目的は金だ。
 ただし、ただ金儲けというのも夢がない。
 貧乏な若い男女が結婚資金を貯めるために冒険に出る。そういう設定なら、なんだか微笑ましいし応援したくもなるかな。そんな風に考えた。

 賞金がかかっている事件に首を突っ込んだり、うわさを聞いてお宝を探したり、水戸黄門みたいに町から町に旅していく。システムを固定してイベントだけ差し替えてケータイアプリで三カ月おきに配信。
 五話か六話貯まったら、PSPかDSあたりに二話追加して移植。
 そんな感じでどうだろう……てなことを考えていたのだけど、目先の仕事に忙殺されてそれ以上は深く考えてなかった。

 去年1月に「透明の猫と年上の妹」夏に「傷だらけのビーナ」(両方エンターブレイン、発売日未定)を書いて、どっちも登場人物の半分ほどが死ぬような話なので、ちょっと疲れた。で、ふと思い出したのが先の「貧乏な若い男女が結婚資金を貯めるために冒険」だ。
 そのとき水玉さんのポップなキャラが頭に浮かんだ。
 で、まともな企画書すら1行も書いていないのに水玉さんに「描いてもらえませんか?」とメールしてみたら、描いてくれた。おまけに出版社まで紹介してもらった。企画書を書いたのはそのあとだ(笑)。こんな調子で決まったので、僕は終始ノリノリで仕事をさせてもらった。
 その雰囲気は、読んでもらえれば伝わると思う。さらには「どうせなら小川一水君に帯の推薦文を頼もう」と、なかば冗談で言ったら、これもすんなり引き受けてもらえた。
 こんな楽しい仕事ばかりならストレスが溜まらないだろうな。……とか言ってたら校正用のゲラが届いた。さて、やるか。


 校正中――
 この歳になると文庫本の校正は辛い。ルビの濁点と半濁点が区別がつかない。濁点と半濁点の違いを強調した「ルビ専」とかいう書体を誰か考案してほしい。
 いつだったか「青野さんや永井さんの原稿は拡大してあげてね」と確か高山みなみに助言された。
「みなみは優しいエエ娘(こ)やのお。うちの息子の嫁に」と惚れたね。
 でもそんな彼女もそろそろ老眼仲間(笑)。


 校正終了――
「ジョンとマリー」には新しい部品はひとつもない。ただし部品の新しい組み合わせのアイデアが2個くらいある。たった2個の組み合わせの新しさだけでも、けっこう面白い娯楽商品は作れる。
 というあたりの方法論を書いたのが、実は3月末に出る【ゲームデザイン脳 桝田省治の発想とワザ】(技術評論社刊)だ。
 ふ~、次はそっちの校正が待っている。
 自分で書いた文章って、何度も読み直しているとだんだん面白いのかどうか、わからなくなってくるからイヤだ。
 いや、まあ、面倒くさいだけなんだけどな。

 そのジャケットや挿絵を担当しているのが帝国少年さん。
 彼のサイトhttp://tksn.web.infoseek.co.jp/の作品を見ていて「なんかこの絵、昔一度見たことがあるよなあ」と思ったら、八年くらい前に広井さんから二枚ほど都市の緻密な設定画を見せられて「この世界観でゲームにできんか?」みたいな話があって、確か次元を超えるバイクを駆る窃盗団を主役にして、とかなんとか、そんな感じの企画書を書いたことがあったっけな……と思い出した。
 結局その企画はボツったんだけど、「ああ、あのときの設定画、この男だったんかい。へ~、へ~、へ~」と妙な縁を感じた。

 先週、ジャケットのイラストのラフが送られてきた。
 うら若い乙女の首が取れてたよ。いや、まあ、そういうのを頼んだのは僕なんだけど、それでも笑った。
 ちなみにゲームデザインの本なのに帝国少年さんの書き下ろしポスターが付録。
 なんだか制作費のかけ方を間違えてると思うのだけど、たぶんいい感じに間違えてるから、帝国少年さんのファンの方は、ポスターのオマケにゲームデザインの本が付いてきた、でいいよ。
「ゲームデザイン脳」の帯の推薦文をスマブラの桜井くんが書いてくれることになった。
 だけど、僕の予想では彼はきっとこう書く。「帝国少年オリジナルポスター!!」。
 桜井くんも帝国少年さんのイラストが好きらしいんだ(笑)。