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ラノベ企画メモ「虫オンナ」続き
桝田 省治

●虫オンナ 要件整理

1.読者が期待しているテーマ:
・異なる価値観を持つ者たち(主人公と虫オンナ)が接触することで起きる事件の「意外性」。
 そこからの展開で「グロテスクなホラー」「想いが届かない切なさや哀しみ」「珍騒動の笑い」。このあたり。あとは、異次元のエロか。

2.テーマを具現化する部品、演出など:
・人間とは異なる虫オンナの生態の描写。
・人間と少しだけ違う虫オンナの外見。美しいあるいは可愛いのだが、どこか異様な擬人化。

3.生態、道徳の違い:
・非常に多くの卵から孵る。
・生態まで成長するのはわずか。
・成虫になるためにひたすら食う。
・成長に伴い変態する。脱皮する。
・個体の寿命が短い。
・生き残ることが正義。
・発情期がある。
・身体は交尾までもてばいい消耗品。
 一言でくくれば「命の重み」。
※身体が人間になった時点で、虫オンナは、上記の特徴をどこまで残すか?

4.虫オンナ出現の理由案:
・主人公に「恩返し」するため
・主人公を敵とみなし排除するため
・主人公を餌とみなし捕えるため
・主人公に助けを求めるため
 ……このあたり。ようするに何でもいい。

5.主人公:
 一応ラノベを想定しているので、主人公は、共感を得やすいように受験を控えた高校生男子あたり。
 一時的にせよ、未来に悲観的になり、「命の重み」に関して一般の人間より軽く感じる心理状態。
 そのため、虫オンナの価値観に驚きながらも理解を示す。

6.共通の敵:
 価値観、生態の違いを際立たせるためには、まず主人公と虫オンナが衝突。その後に協力。
 そのためには、価値観、生態の違いを妥協してでも共闘せざるを得ない共通の敵が否応なく攻撃してくるのが話が早い。

7.敵の候補:
 一般の人間より、ある意味で「虫」寄りの道徳観、行動原理をもっている者。
 暴力団、ホームレス、警察、軍隊など。
 主人公と虫オンナの共通の敵であると同時に、その価値観においては、主人公と虫オンナを橋渡しする存在。

8.舞台:
 主人公と虫オンナの生活を描きたい。
 虫のイメージからして、広範囲よりは一カ所(生息地、テリトリー)に留まるほうが生態に合致する。
 また、生い茂る木や草、古い家屋など、虫がいっぱいいそうな環境の中。

●設定:
 ということで、上記1~8を満たす設定を考えてみる。
 主人公は、高校生3年男子。現在夏休み。実家は東京だが、地方の進学校の寮で暮らしている。
 親が事業に失敗し、授業料を滞納している。
 夏休みが終わるまでに支払わないと退学になることがわかっているが、払えるあてはない。
 両親は借金取りに追われているらしく、連絡が取れない。
 主人公は、夏休みになると実家に戻るが、家は差し押さえられていて、近々競売にかけられることを知る。
 人手に渡る前に、自分が育った懐かしい家にもう一度入りたくなり、緩くなった窓枠を外して侵入。
 家の中は、うす暗くホコリが積もり蜘蛛の巣が張っているが、春休みに帰省したときのままだ。
 誰もいないはずの家の中に何者かの気配を感じる。それは、見たこともない女の子だ。
 女の子は主人公に「今度来たら命はないと言ったはずよ」と言う。
 追いかけようとするが、何かに足を取られて倒れ、さらに顔を何かに覆われた挙句に、何者かに殴られて主人公は失神する。
 気がつくと数人の女に取り囲まれている。
 女たちは、「脳を溶かす」「食う」「卵を産みつけて埋める」など主人公をどう始末するか、相談をしている。
 主人公の意識が戻ったことに気づいた女の一人が、主人公の顔を見て、主人公がこの家の元住人の子供だと気づく。
 聞けば、女たちは、優良な競売物件であるこの家を不法占拠しようとしている輩と戦っていた。

 で、家を守ろうとする主人公+虫オンナと家を不法占拠しようと企むヤクザたちの抗争が始まる。

●虫オンナ 改案

「虫オンナの異形の能力VS間抜けで凶暴なヤクザ」という構図がとくに悪いわけじゃない。
 が、書きたいのは、主人公と虫オンナの緩くて怠惰で奇妙な関係性だ。
 ヤクザとの抗争は、切羽詰まった状況を次々に作ることでその奇妙な関係性を顕わにするきっかけにすぎない。
 ……ということで、もう一度、設定を考え直す。

 主人公と虫オンナが緩くて怠惰な関係性を築くには、本来なら時間がかかる。
 が、先に書いたとおり僕が書きたいのは、その異常な関係性なので、その関係性を築くまでの細かな話はできるだけ省略したい。
 省略するためには、以前からの知り合いであればいい。
 最も都合がいいのは、虫オンナが人間ではないという異常に気づく年齢よりも前からの知り合いだったという設定。
 ようは幼小の頃からの付き合いだ。
(この設定なら、主人公に「虫オンナとは何者か」を語らせることができて説明が楽)
 で、主人公は覚えていないが、何度も虫を助け、当たり前のように人間の姿を借りた虫オンナが毎年夏休み前後に主人公の前に「恩返し」という口実で現れている。
 10歳くらいには、主人公も虫オンナが人間ではないとわかってはいたが、なにしろ兄弟も友人もいないし、幼いころからの付き合いなので無下にはできない。
 とくに嫌いになる理由もないので、ダラダラと付き合っている。
 主人公が子供のころの虫オンナに対する印象は、過激な遊びをする不思議なお姉さんたちであった。
 が、主人公が少年になってくると、主人公と虫オンナたちとの見た目の年齢もだんだん近づいてくる。
 そうなると、もともと生き死にやセックスについてフランクな虫オンナの言葉や行動に慌てることもしばしば。
 おまけに中学になってからは、冗談だとは思うが、主人公を誘惑する始末。
 で、主人公は、虫オンナの誘惑から逃げるべく、全寮制の高校に入学した。
 ところが、親が事業に失敗し夜逃げ。家が競売にかけられると聞き、家に戻ってきた。
 主人公を手ぐすね引いて待っていたのは、虫オンナたち。

 ……とか、そんな設定なら帰宅直後からいきなり
「おかえり、○○ちゃん(ハート)」
 から始められる。
 で、子供の頃の話は、要所要所で回想を挟む。

 こっちのほうが話が早いか。


●虫オンナの生態:
 出自が爬虫類や両生類を除けば、虫オンナの寿命は長くて数か月。
 よって今年現れた虫オンナは、種類が同じで姿形が似ていても去年の虫オンナとは違う個体だ。
 が、虫オンナは、同種族総体の精霊のようなもので、過去の虫オンナの記憶をもっている。
 いわば、1年ごとに起きる「転生」だ。
 ただし、過去は記憶の底に仕舞われているらしく、主人公のことを思い出すのに毎年時間がかかる。
 虫オンナが現れるのは、梅雨明けから1か月の間に限定される。

●登場する虫オンナの候補
 選択のポイントは以下4点。
・人間にない虫らしい特殊な能力が面白く、かつ汎用性が高い。
・意外なタブーがある。○○オンナの前を横切ってはいけない。○○オンナの前で××の話題は厳禁など。
・姿形に特徴がある。
・上記2点が感覚的に納得できる。
 登場する虫オンナは、3~5種程度。台詞の多いメインキャラは、多くて3種。

○ツイッターでの一番人気
・蟷螂(かまきり)オンナ
 わかりやすい武器、「雄を食う」習性あたりが受けてるのだろう。ちなみに蜘蛛も場合によりオスを食うようだ。

○変態が面白いので、どちらか
・蛆(うじ)オンナ→蛹(さなぎ)オンナ→蠅オンナ
・毛虫オンナ→繭オンナ→蛾オンナ
 変態して外見や能力が変わることで、ハプニングを起こしたり、大逆転を演出できる。

○脱皮する面白さ
・蛇オンナ
 ギミックとして、上記の変態同様に面白い。
 ※蟷螂も脱皮したかも?

○糸を吐く、巣を張るは汎用性が高いので
・蜘蛛オンナ
 ※糸を吐くのは、毛虫オンナと被っている。被らないようにするには、「蛆(うじ)オンナ→蛹(さなぎ)オンナ→蠅オンナ」

○飛行能力は、逆転に便利なので、どちらか
・蝙蝠(こうもり)オンナ
・蜂オンナ
 ※飛行能力は、蠅オンナや蛾オンナで足りるか。

○次点。個人的な好みと虫っぽくないヤツ
・蛙(かえる)オンナ
・蛞蝓(なめくじ)オンナ

 このあたりから絞り込んでいく。
 設定が難しいのは、特殊能力よりはむしろ「タブー」のほうだ。
 それと蛙と蝙蝠以外は、短命ばかりなのが若干気になる。

●虫オンナと暮らす際の諸注意:
 蟷螂、蜘蛛などの肉食で狩人系は、「うかつに前を横切ると命の保証はない」。
 危険を感じたら、「息を止めてとにかく動くな」。
 産卵が近付き発情しているときは、とくに注意。

 蛆、毛虫の前で体型の話題はタブーだろうな。
(ちなみに蠅オンナのファッションは、とくに理由はないがパンクの気がする。蟷螂オンナは、身長180センチで手足も長い細身の12頭身)

 蛙や蛞蝓や蛭は、湿気がなくなると衰弱するので保湿に注意。家内での居場所は主に浴室。

 蝙蝠は昼間は寝ている。昼間声をかけても寝ぼけていて不調。実際は、ほとんどの虫が夜行性だけど。

 蜜蜂なら刺したら死ぬ。

 蜘蛛、蛇、蛆の唾液は毒性があるので、喋るときは距離を置く。興奮させない。