記事一覧

透明の猫と年上の妹〈3LDK-RPG〉
桝田 省治

アップロードファイル 302-1.jpgアップロードファイル 302-2.jpg

 冒険の舞台は、甲子園がほど近い尼崎の、阪神大震災の折にできたひび割れを修繕した跡が目立つマンション。その一室。
 主人公は、ライオンズのおひざ元、所沢から引っ越してきたばかりの10歳の男の子。今は夏休み。

 3LDKの何の変哲もないマンションの一室が、あることをきっかけにゲームのような不思議な世界に変貌する。
 たとえば冷蔵庫は雲をつく氷の塔に、掃除機はドラゴンに、風呂は煮えたぎる火口に……。
 普通の3LDKが変貌をとげた理由は魔力の暴走。
 実は主人公のママは何百年と続く魔女の血筋。ただし魔法は覚えていない。
 おばあちゃん曰く「魔法で火をつけるよりレンジのスイッチをひねるほうが簡単で安全」

 ママの魔力が暴走したのは極度のストレスが原因だ。
 主人公が10歳になるのを機に職場復帰を考えていたら二人目の妊娠が発覚。愚痴を聞く役の実母が突然他界。夫の転勤で知り合いがひとりもいない関西に引っ越し。
 転勤後、忙しい夫は家をかえりみない。主人公の誕生日だけは定時に帰宅するという約束も一本の電話で反故。
 ママは寝室に閉じこもってふて寝。それをきっかけに普通の3LDKが悪夢のごとく変容をはじめる。

 タイトルの透明の猫は、代々の魔女たちに仕えてきた妖怪。古い和ダンスの引出しに住んでいる。役割は、魔女の愚痴を聞くことでストレスのガス抜きをして、魔力の暴走を未然に防ぐこと。
 だが、今回ばかりはキャパオーバー。猫の身体はママのさまざまなストレスで色がつき膨れ上がって爆発寸前。
 この猫のいい加減な助言と頼りない支援を受け、10歳の主人公がママを起こすべく寝室に向かう。

 リビングの隣りにある和室からママが閉じこもった寝室まで実際の距離なら5メートルと離れていない。
 が、この5メートルが限りなく遠い……そんな感じの小さな小さな大冒険。
 予約受付中。 http://p.tl/kjvT