ゲームの仕様を決めるとき、たとえばこんな風なことを考えているというのを今日は公開してみる。
宣伝もかねて今月末にドコモで配信予定の「勇者死す」を例に話そう。
「勇者死す」は「勇者は魔王を倒した。だが余命5日」そんな感じの設定で、その5日間に何をするか、というRPGだ。
システムとしては、余命5日の間に身体パラメータが減退し、5日目に確実に主人公は死ぬ。
ところで、僕は死んだとこがない。さらに不治の病にかかったこともない。たぶん99%以上の方がそうだと思う。
このような状況下で「余命5日で身体パラメータが減退していく感じって、きっとこんななんだろうなあ」と誰もが納得する、そんなパラメータの落ち方をどう構築していくか。
それが以下である。
1.衰弱のイメージ:
大部分のプレイヤーは、体を蝕む不治の病にかかった経験はない。せいぜい他人の癌の闘病日記を読むか、身内にそういう人がいれば話を聞くか、であって自分の感覚として知る人は、まあいない。
ということは、本ゲームの勇者の衰弱も、所詮は想像の範囲内でのリアリティがあればいいということだ。
僕が想像する衰弱から死に至る過程は、特撮映画でよく見るダムの決壊シーン。
いきなりは壊れない。いくつかの予兆があり、目に見えるひびとか水漏れが始まってからは全壊までは瞬く間。時間に比例して壊れるのではなく、途中までは内部的に静かに崩壊し見た目はあまり変わらず、溜めて溜めてドカン! みたいな感じだ。
さらに一番イメージが近いのが「虫歯の進行」。日本人なら8割以上の人が経験があるはずだ。このイメージは共有化しやすいだろう。
先のダムの決壊と共通するのは、初めの頃はどうということはなく、兆候はあるもののまだ大丈夫だと思っていたら、気づいたときには手の施しようがなく完全に手遅れになっている。そんな加速度的に感じる進行具合だ。
2.勇者の衰弱過程を虫歯の進行と並べてみる:
イメージをさらに具体化するために勇者に残された5日間に、虫歯の進行を当てはめてみる。
・1日目:
学校の歯科検診で虫歯が見つかるが自覚症状は、まったくない。
痛みを感じる瞬間もあるが、瞬間であり、日常生活の中の痛みのほうがむしろ目立ち、気にならない。
自分が虫歯だということを忘れることすらある。
・2日目:
強く噛みしめる、冷たい水を飲むなど特別なことをしたときのみ、虫歯の進行を一瞬だけ実感する。
だが、この段階では日常生活にほとんど支障はない。
・3日目:
虫歯の側で噛むと明らかに痛いので、無意識に反対側で噛むようになる。
疲れが溜まったときには我慢できない痛みを感じる。だが、弱い鎮痛剤で抑えられる。 唐突に痛みが消えることもある。
虫歯の部分を使わないように注意し、ときどき薬を飲めば、痛みは抑えられ、まだ日常生活に重大な支障はない。
・4日目:
恒常的に鈍痛。歯だけでなく肩こりや頭痛も始まる。トントンと指で弾くだけで激痛。
周囲からも「どうしたの?」とか「顔色悪いよ」とか指摘される。
飯が食いにくい、睡眠が浅い、集中力が減る、鎮痛剤の副作用などで日常生活に支障が出る。
・5日目:
間断なく襲う激痛。顔の形も変わる。薬も効かない。日常生活が困難になる。
歯医者に行く覚悟を決める。だが、当然手遅れ……。
3.要素の抽出と、本ゲームでの表現:
前述の虫歯の進行に出てきたキーワードを、本ゲームの衰弱に当てはめてみる。
・痛みの大きさ:
これは減るパラメータの値の大きさ、あるいは、現状の最大値に対して減ずる割合の大きさで表せるだろう。
ちなみに気にならない痛みとは、たとえば1戦闘での累積ダメージが10のバランスのとき、5程度最大HPが減ってもそんなに気にならない。
・痛む頻度:
パラメータが減る頻度が増えていく。
たとえば最初は、ゲーム内時間で4時間に1度だった減少が、2時間に1度、1時間に1度になれば、病魔の進行が速くなった気がする。
・薬でごまかす:
中盤あたりでは、下がった特定パラメータを一時的に誤魔化すのに、薬やパーティを増やす等でしのぐ手立てがこれに当たるだろう。
・薬の副作用:
薬が効いている間、なんらかの状態異常が起きる。それと引き換えに、減少分のパラメータのいずれかを補う。
・特別なときに実感:
ボスクラスの敵との戦闘にてこずる。
通常攻撃ではさほど感じないが、属性のある魔法攻撃を受けるとダメージが大きい。
魔法にかかりやすい。
ポンポン出ていた会心の一撃が目に見えて減る。
痛恨の一撃を受けやすい。
攻撃をミスする。
ターンの回りが遅くなる。
特定の武器や防具が使えなくなる。特定の魔法が使えなくなる。
・痛みを感じない工夫や注意が必要:
魔法属性やパーティの仲間の性能を考慮したうえで、アイテムやメンバーを選び、ボス戦に挑まないと勝てない。
用途が限定的な装備をあえて使うなんてのもこの類だろう。
・他人に指摘される:
NPCのメッセージを差し替える。主人公の顔グラフィックが変わる。
青ざめるとか、目の下に隈ができるとか。
・恒常的に痛い:
何もしなくても状態異常になる。治療してもまたすぐに状態異常になる。
・日常生活に支障:
大雑把な目安。初期状態の主人公のパラメータを10割とすると、敵のパラメータの目安は、8~7割前後がボス、6割が強めの雑魚、5割が平均的雑魚、4割が弱い雑魚。
勇者にとっての日住生活に支障が出るレベルとは、ボスに勝てなくなることを指す。
こんな感じでイメージを決めて、それから具体的なパラメータの種類を設定したり数値の上限下限をどれくらいにするか決めたりしていく。
そうすると、本ゲームのHPの意味とか時間の概念とか考えるときの手がかりになる。
たまにはこういうネタバレも面白いだろ?