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彼女のジョーク
桝田 省治

 今朝、死んだ友人の夢を見た。
 僕は、彼女が人前で大口開けて笑っているのを、とうとう生前一度も見ることがなかった。
 誤解がないように断っておくが、彼女がクールな性格であったわけでもユーモアのセンスがなかったわけでもない。
 むしろ普通の人が顔をしかめかねないかなりきわどいジョークでも「うふ、なかなか面白いね」くらいのノリで付き合ってくれた。
 それに大口開けて笑いはしなかったが、微笑みはとても優雅でかつチャーミングだった。
 で、僕はその彼女に夢の中で、あるジョークを言った。
 例によって、大口開けて笑ったりはしなかったものの
「今まで省治くんから聞かされたジョークの中では、一番面白かった。もう少しで声をあげて笑いそうになったよ」と褒められた。
 僕は有頂天になった。
 だけど夢の最後にこう忠告された。
「でも生きてる人には、ちょっときつすぎるから言わないほうがいいよ」と。
 さらに、僕という人間をよく知る彼女は
「と言ったところで省治くんのことだから、いずれ言うに決まってる。だから、こうしましょう」

 というわけで、目が覚めると、この夢、そのジョークの内容だけが思い出せなくなっていた。
 かなり切れ味のいい、辛辣な内容だったことは確かなんだけど。
 たぶん、死ぬ前に見る最後の夢の中で思い出すことになる。
 なにしろ彼女のジョ-クときたら僕のジョークよりずっとタチが悪かったから。