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PATAPONの地味なシナリオ
桝田 省治

 パタポンのグラフィック、音楽、ゲーム性、どれも非常にユニークだ。
 これら要素に関してはプレイすればすぐにわかるから、発売後はあちこちで語られるだろう。
 だから、へそ曲がりな僕はあえて書かない 。

 僕が開発の中途から参加したとき、一番カタチが見えてなかったのが、世界設定やプレイヤーの立ち位置、ゲームの目的。
 ようするにシナリオ部分だ。

 シナリオライターは、本作の開発現場のプロデューサーでもある飯淳。
 PCエンジンユーザーには懐かしい名前かもしれない。エメラルドドラゴンのシナリオを書いたあの飯くんだ。
 彼は、のた打ち回らんばかりに悩んでいた。
 苦悩の中身は、平たくいうと「パタポンのグラフィック、音楽、ゲーム性、どれも非常にユニークだ。シナリオもそれに負けないようなもんにしたい。あーいうこともやりたい、こーいうこともやりたい」
 ま、こんな感じ。
 エメドラをプレイした経験がある方ならわかってもらえると思うが、彼のシナリオの特徴は、けれんみのある伏線が重層的に張ってあって、それがここぞという場面で爆発する。
 だけど、キャラや世界観、物語で勝負しているエメドラと違って、パタポンは既にグラフィック、音楽、ゲーム性で十分に差別化が図れている。
 というか、むしろ斬新過ぎてユーザーを置き去りにしつつある、商品としてはちょっと危険な領域に突入しているように僕には思えた。
 ユーザーは新しいものが好きだ。
 しかしながら多くのユーザーが求める新しさというのは、半歩、せいぜい一歩先の新しさであって、二歩先はマニアしかついてこない。
 だから、ここでシナリオまで凝ったものにしたら、このゲームは落しどころがなくなる。
 意見を訊かれたから、そう応えた。
 つまり今、このゲームのシナリオが果たすべき役割は、今までにないグラフィック、音楽、ゲーム性などの部品が、その特異性ゆえに作り出したルールをなるべく直感的に理解できるシンプルな設定や目的をユーザーに提示すること。
 たとえば、なぜプレイヤーが太鼓を叩くと大勢のキャラがその指示に従い行進したり攻撃したりするのか。
 なぜパタポンたちは左から右にどんどん進むのか。
 なぜ怪物やら他部族がその行進を止めようとするのか。
 あるいは、なぜ新しい太鼓(コマンド)が都合よく増えるのか、なぜ新しい職業のユニットがだんだん増えるのか。
 そもそもパタポンって何? なんで彼らは歌うの?

 極端なことを言えば、他の部品を最大限に生かすためにシナリオは「殺せ」と。そういう意味の話をした。
 飯くんは、実に頭のいい男だ。
 僕の死刑宣告に対し、シナリオライター飯淳はそれでも抵抗したが、プロデューサー飯淳は納得したらしい。
 で、現在の必要十分な地味目のシナリオがある。

 今思えば、飯くん自身、僕に言われるまでもなく、既に答は出ていて、背中を少し押してほしかっただけだと思う。
(ようするに、この男、いい歳こいてまだ熱く、負けず嫌いなんだよ、うらやましいことに)

 多くのシナリオライターが「俺が俺が」と自己主張の強いシナリオを書きたがる。気持ちはわからないでもない。
 だけど、ゲームにおいては、それが必ずしもベストな選択ではない。
 ということを若いゲームのシナリオライターは、飯くんが書いたパタポンのシナリオから学ぶといいよ。

 
 以下、公式サイトとか応援ブログとか
 http://www.jp.playstation.com/scej/title/patapon
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