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[あとがき] 
 その日思いついたアイデアをネット上の日記に、メモ代わりに書きとめています。以下は「女戦士の苦労話」と題された二〇〇九年一月十日の日記、本書の元になったメモです。 
 ちなみに文中に出てくる「RPG」という単語は、プレイヤーが勇者や魔法使い等になって魔王を倒したり財宝を探したりすることを目的としたゲームの一ジャンルです。 
『女戦士の苦労話』 
 既存のRPGにおける戦闘に参加する女性キャラは、大別すると以下の二種類のどちらかだと思う。 
1.女性だが、男性キャラとパラメータ的には何の遜色もない。ようするに容姿がかわいい、あるいはエロい女性というだけで、ユニットとしての性能には男女の差がない。あっても少しだけ。 
2.魔法使い、僧侶など、主にサポート的な役割。 
 でだ。今回提案したいのは、男女の体力的な差は歴然とある。とくに戦士と呼ばれる職種では、埋めがたい差がある。それでも、「戦士になりたい」あるいは「戦士にならざるを得ない」そんな事情がある、戦士志願の女性。 
 そんな女性を主人公にすえたRPGは、どうだろう、という話だ。 
 彼女の体力的、社会的、あるいは女性ならではの苦労、障害を、プレイヤーにリアルに体験させることが主眼だ。 
 体力のなさを、ちょっとした魔法やアイテムでカバーしたり、ユニークな作戦を考えたり、あるいは彼女の生き方を理解する仲間に出会えたり……このあたりの戦術の組み立て方やイベントは今までのRPGとちがった味わいになると思う。 
 もちろん恋愛要素もいるなあ。 
 ま、システムは既存のもののバランスを見直して、ユニークなコマンドがふたつもあればなんとかなるだろう。 
 あとはキャラクターだ。 
 あきらめが悪い、腹が据わっている、立ち直りが早い、というあたり以外は、平凡な女性が合うように思う。 
 問題は、なぜ彼女が、戦士になろうとしているか。その動機だ。 
 これがバッチリ決まれば、いけるね。ある意味、鉄板だ。 
 さて、日記に書いたこのアイデアのメモですが、いろいろと僕の思惑を裏切りました。 
 まず、女性の苦労を仮想体験させることが狙いなのですから、当然、男性のプレイヤーがメインターゲット……のはずが意外にも女性のウケがよく、テレビゲームの企画として書いたつもりが、反応したのは、なぜか書籍の編集者。まッ、僕の場合よくあることですけど(笑)。 
 さて、ここからが大変。なにしろ、本企画は、ゲームシステムやゲームバランスから発想したので、物語どころか、状況も主人公すらも具体的な設定がありませんでした。 
 そこで、主人公を求めての迷走がスタートします。たとえば、「天上界を追われて翼をもがれ、地上で魔物と戦う女天使」とか「病気の弟のために人魚の血を探しに行く健気な姉」とか……。 
 結局、「セクハラオヤジと組んで千人の敵を相手に篭城戦に挑む少女」という、日記に書いた原案のイメージに近い現在の主人公、ビーナを見つけるのに二ヶ月もかかりました。 
 この時点で、コンセプトも「男性優位の職場で働いてる女性の皆さん、いろいろ大変でしょうけど、気晴らしにこれを読んでスカッとしてね!!」くらいの感じに決めました。 
 三月の半ばから書きはじめて、この後書きを書いているのが八月一日。正直、長かった……。 
 最初から読み直してみて思うのは、長かったけれど、当初のコンセプトは最後までゼンゼンぶれてないなという点。そこだけ自信があります。 
 本書がひとりでも多くの頑張ってる女性たちを元気づけることを切に願っています。 
 構想では、一冊目の本書がビーナ十七歳「新入社員は大変だ。右も左もわからないけど、とにかく頑張るしかないよ」編、二冊目が二十五歳「だんだん仕事を覚えてきたけど、やっぱり大変だ。結婚願望もないわけじゃないし」編、三冊目が三十三歳「管理職は大変だ。おまけに子育てはもっと大変だ。トホホ」編を予定しています。 
 まッ、先述の通り、僕の思惑はたいてい外れるので、どうなるかわかりませんけど。あまり期待しないでお待ちください。 
 最後になりましたが、四ヵ月半の執筆に付き合ってくれた顔も知らないネット上の友人たち、 
大村梨紗さん、教育委員会さん、くろすけさん、七さん、貫田将文さん、まなせさん、まみさんに深く感謝。 
 あと、僕にとって一番身近な働く女性であり、三人の子供の母でもある僕の妻にも、 
「いつもありがとう」 
 二〇〇九年 八月一日 桝田省治 
(明日17日、発売です) 
http://p.tl/Urbv 
 
		


