●恋人よ 野沢尚著
油断した。
娘の塾が終わるまで三時間ほど待っている間、上下巻で600ページ以上あるから、帰りの電車まで何とか暇つぶしにもたせようとゆっくりめで読もうと思っていたのに。
あまりに面白くて一時間ほどで読み終えて、二時間ぼんやりする羽目になった。
自分にこんな集中力がまだあるとは思ってなかったよ。
構成から部品まで、とにかくあざとい恋愛小説だ。
とくに主人公の手紙の内容。
思い出しただけで、こういう作り話に引き込まれた自分に腹が立つ。
こういうもんは読みたい話じゃない。
書きたい話だ。
くそ。腹が立つ。
ホントうまいなあ、野沢尚。
たぶん、僕が読んでいない彼の著作物はあと2冊か3冊だ。
生きていれば同い年のくせに。
それも無性に悔しい。
こんなに腹が立ったのは久しぶりだ。
●方舟は冬の国へ 西澤保彦著
PCエンジン版のリンダキューブのキャッチフレーズが、確か「箱船は星の海へ」だったっけなあ……と思いながら読みはじめた。
赤の他人である成人男性、成人女性、10歳の少女の三名が、とある別荘で夏の一ヶ月間、仲のいい家族の振りをする。
なぜ、こんなことをしなければならないのか?
てな、趣向である。
その答自体は、はっきり言えば「そんなオチかよ(笑)」だった。
だが、そこに至る寸前までの話はワクワクしたし、ここまで突飛な設定にした段階で万人が納得できる着地点などないに等しい。
その中で、とりあえず口当たりのいいハッピーエンドだったから、
まあ、よしとしておく。
●夏のロケット 川端裕人著
途中で投げた本が三冊ほど続いて、秋だというのに読書意欲が失せ気味になっていたが、
これは面白かった!!
高校時代に手製のミニロケットを打ち上げていた少年たちが大人になってもその夢を追い続け、ついに……という話。
設定自体が「クライマックス」に向けて、ハナからご都合主義な部分はなくはないが、「少年の夢を追いかける大人」というバカ者どもの熱量に当てられて、最後には不覚にも感動までしちゃったよ。
●「明日の水は大丈夫?」橋本淳司著
●「食の冒険地図」森枝卓士著
という本を技術評論社の美人編集者からもらった。
ThinkMapというシリーズだそうな。
両方ともけっこう深刻で複雑な問題が専門家の手で取り上げられているにも関わらず、頭のいい人が書いたんだろうね、すごくわかりやすい文章で読みやすかった。
それに、知らないことを知るのは、いくつになっても新鮮なもんだと素直に思えた本だった。
こういうの、中学生の夏休みの感想文の課題にして、図書館に置くべき本なんだろうな。
●赤目のジャック 佐藤賢一著
「片目のジャック」のパチモンみたいなタイトルだなと思って読みはじめた。
フランス版の土一揆「ジャックリーの乱」
この「ジャックリー」は、英語なら「ジャック」日本語でいえば「太郎」。
つまり「特定の主導者がいない反乱」とか「名もない平民の反乱」みたいな意味らしい。
そのジャックがもしも個人としていたとしたらこんなやつだったろう、という内容の小説。
傑作だと思う。興奮した。面白かった。
だが、読んだことを後悔している。
なんか中途半端に嫌な影響を受けてしまいそうだ。
たぶん僕が小説に求めてないことが書いてあった。