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ゲームデザイン脳から抜粋
桝田 省治

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ちょっと個人的な用事でここにアップ

●自分ならどう作るか? ――ネクストキング――

 他人の作ったゲームをプレイしてみて、つまりライバルの商品を使ってみて、
「自分ならこの材料をどう料理するか? 先行商品とどう差別化するか?」
 という観点の発想も、ものになるかどうかはともかく現実には多い。
 この発想方法は、すでに目に見えて触【ルビ:さわ】れるカタチがあるものを土台に改良するのだから完成形をイメージしやすい。他人に説明する際も「***みたいに」で片づくからコンセンサスを得やすい。それに、制作資金を出す側も売り上げの見込みが立てやすい。結果、二匹目のドジョウを狙う企画は比較的採用されやすい。
 反面で既存のカタチに捉われて発想が縮こまる傾向があり、二匹目のドジョウではなく二番煎じに陥りやすい。また先行商品が絶対的に有利、かつ二匹目のドジョウを狙う追随者も多い。よって、この発想方法はお手軽だが、差別化ポイントが明確でなければ成功は難しい。
 僕はゲームデザイナーを名乗りながら、ほとんどゲームで遊ばない。最初に買ったゲームソフトはDQ【ルビ:ドラゴンクエスト】とDQⅡだったが、これは、桃太郎伝説というRPGの戦闘式を作るためにプレイした。ゲームは僕にとって仕事であって趣味であったことはかつて一度もない。
 とはいえ、まったくゲームをしないわけではない。特に仕事仲間から「これはやっておけ」と熱烈に勧められた場合、よほど忙しくないかぎりはプレイしている。
「ときめきメモリアル(以下、ときメモ)」がそうだった。ときメモとは、一九九四年にコナミから発売された恋愛SLG【SLGルビ:シミュレーションゲーム】の大ヒット作であり、以降の同ジャンルのゲームに多大な影響を与えたパイオニアである。
 主人公は高校生男子。各種パラメータを調整しスケジュールを上手く管理すれば数人の個性的な女の子と恋愛できるチャンスがあり、高校生らしい恋愛にまつわるイベントが大量に発生する。プレイした内容により女の子のひとりから卒業式の日に告白を受けるマルチエンディング。だいたいこんな内容だ。
 これは面白かった。仕事を放りだして三日くらい遊びたおした。恋愛SLGが初体験だったせいもあるが、現実の恋愛模様を適当な匙加減で美化したイベントの数々が実に小恥ずかしく、ひとりで遊ぶにはそれがなんとも心地よかった。
 特に恋愛対象となりえる女の子のひとり、特徴のあるしゃべり方をする片桐彩子嬢には、学生時代の甘酸っぱい思い出までがよみがえり、息が詰まり気分が悪くなるほどまさしくときめいた。
「恋愛SLGというのは凄まじい破壊力だ」と感心した僕は、冒頭に書いたように「自分ならこの材料をどう料理するか? 先行商品とどう差別化するか?」と考えはじめた。つまり二匹目のドジョウがいると踏んだわけだ。
 ちなみに僕が片桐彩子に異常に興奮したのは、実はときメモの出来がよかったばかりではなかったことが後に発覚する。衝撃の事実を本節の最後にオマケとして付記しておく。(オチを先に読まないように)
“自分ならどう作るか?”を考えていたちょうどその頃、たまたま中学校の同窓会があった。僕が卒業したのは京都の中学だが、父の仕事の関係で一年と一学期間だけ東京の中学に在籍していた。その中学を卒業していないので同窓会名簿に僕の名前はないが、二十代に勤めていた会社でその頃の同級生と偶然再会したことが同窓会に出席したきっかけだ。
 余談だが、その再会した同級生、中学時代はサルに似ているという印象だったが、大人になりちゃんと化粧をすると思わず振り返るほどの美人に変身していた。実を言えば、サル似の彼女がこれほど変身しているなら、当時すでに美人だった女性はどうなっているのだろう、という下世話な興味も同窓会に参加した理由のひとつだ。
 話が脱線した。同窓会の話に戻る。
 僕は中学一年時に身長が一七〇センチあり(そこで止まった)、注目されやすい転校生であったから、ほとんどの方が僕を覚えていた。加えて卒業アルバムに載っていないスペシャルゲストでもあったので、皆さん気を使ってくれたのだろう、同窓会ではとてもチヤホヤされた。さらに、お酒も進んでくると複数の女性から、それも大半は人妻だ、こんな告白まで聞こえてくる始末。
「実は桝田君のこと、ちょっと好きだったんだ▽【▽:白抜きハートマーク】」みたいな……。
 オイオイとは思ったものの、こっちも適当に酔っているから、「あのときもしも転校しなかったら僕たち付き合ってたかもしれないよね」などと、陽気な人妻たちの戯言に調子を合わせた。複数の女性との“if”を楽しむという意味では、それこそ、ときメモを何度もプレイするような感覚だ。
 だが、その楽しい妄想は、別の同級生の密告によりあえなく笑い話と変わる。
「ないない。だってあのとき、あんた、**君と付き合ってたでしょうが。あんた、好きな人、いったい何人いたのよ。ゲラゲラ」
 まッ、現実なんてそんなもんだ。ステキな女性なら複数の男性にアプローチされるだろうし、すでに付き合っている人がいてもおかしくない。それに気になる異性が同時に複数いることも実際には珍しくもなんともない。いや、それが普通か。
 酔った頭でそう考えたとき、僕は“自分ならどう作るか?”を見つけた。
 自分と同じような男性がゲームの中に数人存在する。一方女性にはすでに恋人がいる場合もある。おまけに複数の男性を同時に好きになるのも、心変わりするのも当たり前。
 プレイヤーは、恋のライバルを押しのけて自分の魅力をアピールし意中の女性のハートを射止める、そんなイメージが浮かんだ。
 ただし、ちょっと生々しすぎてユーモアが足りないかなとも思ったので、実際の企画ではこんな風にオブラートに包んだ。
 変人の王様が「次の王様は女の子に一番もてたヤツにするぞよ」と冒頭で宣言。プレイヤーは王様候補の王子のひとりとして、一癖も二癖もある十二人の女性有権者を相手に、いかに自分が素晴らしい男であるかをアピールする選挙運動を繰り広げる……という馬鹿げた設定だ。
 そして完成したのが“対戦”という、ときメモにはないゲーム性をもつ恋愛SLG「ネクストキング」だ。ゲームデザインや操作性に難があったためか、思ったほどは売れなかったが、企画自体は悪くなかったと思っている。
 さて本節のポイント。二匹目のドジョウを狙うのは悪くないが、その際はわかりやすい独自性を打ち出そう。そうしないとただの二番煎じになる。

☆オマケ
 本文中で話題にした東京の中学に僕が在籍していた頃、九州から転校してきた女の子がいた。彼女は、話題が豊富で頭のいい明るい人だった。
 僕が京都に転校する寸前の夏休み、信州の林間学校でのことだ。当時そのあたりをまだ走っていた蒸気機関車を僕は彼女と土砂降りの雨の中、相合傘で見に行った。
 付き合っていたわけではない。たまたま傘が一本しかなかっただけだ。だが、彼女は間違いなくチャーミングな女性であったし、その林間学校が終わり東京に戻れば僕は引っ越すという状況もあいまって、なんだかときめいたのを覚えている。
 彼女の名前は、川口雅代。
 本名をそのまま芸名にし、ときメモの片桐彩子の声を担当していた。
 なんと、僕は片桐彩子の声の持ち主と、たった一回たまたまだけど、ときメモのイベントにありそうな甘酸っぱくも切ないデートを二十年ほど前にすでに体験していたんだよ。彼女の声で、頭の片隅に残っていた僕の記憶とゲーム内のデートシーンがシンクロしたんだろうね。まさに既視感【ルビ:デジャ・ビュ】というヤツだ。
 ちなみにその後、川口雅代と連絡がついた。彼女もそのときのことを覚えていてくれて嬉しかった。本当にいい思い出だ。