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先週、読んだ本
桝田 省治

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●七回死んだ男 西澤保彦著

 ある1日を何度も繰り返す男の話。
 その繰り返す日に、遺産相続をめぐる殺人事件が起きる。

 小説に涙とか汗とか情熱と哲学とか萌えとか、そういう悩ましいもんじゃなく、純粋に娯楽だけを求めるなら、ぜひ読むべき1冊。
 感動の類は、一切ナシ。
 こういうのがいいね、よけいな余韻がなくて。
 あ~面白かった。


●妻は、くノ一 風野真知雄著

「奥さまは魔女」じゃなくて「妻は、くノ一」。
 タイトルの引きに負けて内容も確かめずについ買ってしまった。
 が、シリーズで刊行されることが1巻のときから決まってたようだ。
 1巻目は、主要登場人物の顔見せ的な紹介のみ。
 顔見せだけなので、後々、巨大な時代の渦に主人公が翻弄されたりなんかして……で終わってる。
 事件らしい事件もない。はっきり言うと盛り上がらない。
 いや、でもね、なにしろ、ほら……
「妻は、くノ一」だから、続きに期待せずにはいられないのよ、昭和生まれの男としては。
 タイトルって大事だよなあ、とつくづく思う。


●フリーランチの時代 小川一水著

 SF用語も頻繁に出てくるが、主人公も著者も、理性的で優しくユーモアがあり前向きな人たちなので安心して楽しめる。
 たぶん、そのあたりが敷居の高いイメージがあるSFにしては、幅広い層に人気がある理由なのだろう。
 よく管理されたテーマパークのような趣きだ。

 反面、小川くんの作品を読むと、吐き気がするような苦味や酸味成分が欲しくなり、死んでもわかりあえない悪が登場する話や理不尽な展開の酷い話を読みたくなる。

 その点、先日読んだ「天冥の標」は適度に行儀が悪く、僕の基準では味のバランスがよかった。
 美味いのだが、何を食わされているのかわからなさ加減がいい。

 次はいつ出るんだろ?
 楽しみだ。

 あ、「フリーランチの時代」の感想になってないw

ふりだしに戻る 上下 ジャック・フィニー著
桝田 省治

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 いわゆるタイムトラベル物としては、もはや古典の部類に入るのかもしれない。
 たぶん20年くらい、もしかしたらもっと前かもしれない、前に一度読んだことがある。
 が、今やってる仕事の資料として、一応再読しておくべきだろうと思いたち、連休前からパラパラとページを繰り始めた。

 昔読んだときは、冒頭からワクワクが止まらなかったという鮮烈な記憶があったが、今読むとそうでもない。
 40年前のタイムトラベルは、いかにしてタイムトラベルするかという理屈付けやその準備に200ページが必要だったんだなあ、とため息。
 それに、タイムトラベル事前事後の世界の違いを明確にするためには、必要だとわかっているが、それでも町並みや人々の服装の長い長い長い描写にややウンザリ。
 ついでに、風景や人物の描写が思い切りよく省略された『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』というネット上の小説を並行して読んでいたせいもあって、亀の歩みを眺めるじれったさを感じた。

 が、下巻に入ってからは、やっぱり面白い。
 本作の後に書かれたタイムイトラベル物の、ワクワク、あるいは切なさ、そういうものが既に提示されている。
 感想を一言で表せば、「ジャック・フィニー、すげえ」だ。

 ところで、ツイッターを見ている方には今さらかもしれないが、『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』書籍化プロジェクトを勢いで立ち上げた。

【告知】樹原涼子さんのコンサート
桝田 省治

俺屍の作曲家「樹原涼子」さんのコンサート「さわやかな風」が5月30日(日)に恵比寿駅前アート・カフェ・フレンズにて開催されます。
昼の部はもう満席だそうなので、僕は俺屍2が決まることを信じて、新曲の物色に夜の部(19時半~)へ行く予定。

娘は、花と僕と犬に声をかける
桝田 省治

・小5の娘のケータイには、アスファルトやコンクリートのちょっとした割れ目に咲いた花の写真が保存されている。
 彼女はそれらを「強いね」「頑張ったね」と声をかけながら撮影する。わりといい趣味だと思う。

・母校から講演の依頼が来た。
 そのメールを見て「面倒くせえ」と思わずつぶやいた。
 途端に、そばで宿題をやっていた娘から「そういうことは言わないほうがいいよ」と横から声がかかる。
 しょうがないので「前向きにスケジュールを調整する」と返信。
 自堕落な親のもとでもまっとうな子は育つもんだ。

・隣家の犬は、僕には吠えるが娘には吠えない。
 理由を娘にたずねたところ、吠えられるたびにその犬の名前を呼んでいたら吠えなくなったそうだ。

 ちなみにその犬は妻にも吠えない。
 理由を聞いたら一度徹底的に脅したという答。妻が具体的に何をしたかは怖くて聞けない。

魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」 ママレードサンド著
桝田 省治

http://maouyusya2828.web.fc2.com/

2chで書かれた小説らしい。
あちこちで話題になっているので読んでみた。
経済学とオッパイに関して、同じ熱量でもって書かれた、勇者や魔王が出てくるファンタジー小説だ。
勇者と魔王の位置づけに独自の解釈がある。
あと目立つ特徴は、ほとんどが会話なので小説というより戯曲。いや、あんなに目まぐるしく舞台を変える演劇は成立しないだろうから、むしろ講談かな。

利口な編集者が、まともな校正者とそれなりのイラストレーターをセッティングすれば、100円×13章くらいで配信できそう。

何が始まったのかよくわからない冒頭の5分を乗り切れば、あとはかなり面白い。群像劇としてもよくできていて破綻がない。