■『暴プリ』に込めたメッセージ

―今回は、ストーリーについていろいろとお話をお伺いしようかと。

 大まかな話の流れは、要するに、今流行りの「構造改革」なんだね。旧来のシステムを次々に壊して、新しいモノをその後に打ち立てていく話。でも、突っ込み方は、今回は意識してソフトにしたんだ。それは、桜瀬さんの絵を活かすためなんだよ。桜瀬さんの絵は、やっぱり“明るく元気”ってのがいいところだから。僕は今回はディレクターではないけれど、このゲームの完成形を思い描いたとき、「僕のいつもの感じより、少しソフトなストーリーのほうが全体が活きる」と思って。だから、今回は血も少ししかでない(笑)。


―スタッフに合わせて変えていく部分もあるわけですね。

 イチバン最初、5〜6年――もしかしたら7年くらい前かもしれないけど、その頃に思いついた『暴れん坊プリンセス』は、まあ『水戸黄門』や『暴れん坊将軍』の女の子バージョン。この感覚はウケるだろうっていうのは見えていたけど、僕の中で肝心のテーマが見つからなかったんだよ。だから「今作っても、ただのちょっと変わったギャルゲーになっちゃうなぁ」と思って、放ったらかしにしてた。  でも、この作品を「やろう!」と踏み切った理由のひとつは、桜瀬さんなんだよ。最初は別 のゲームの打ち合わせで会ったんだけど、『暴プリ』のアイデアについてちょっと話したら、目がキラキラしてきて。しかも翌日には「こんなキャラクターでしょ?」って、ファックスから絵がドカドカ流れて来て(笑)。


―桜瀬さんと会ったことが、『暴プリ』制作開始のキッカケでもあると。

 もうひとつの理由に、僕に娘ができたこともある。僕が40歳のときに生まれたんで、彼女が20歳のとき、僕は60歳。きっと今ほど体も動かないし、彼女に物理的に“してあげられること”は限られてるなぁ、と気づいた。物理的にできないのなら、精神的な部分――例えば応援とか――を形にしておきたいなぁ、と。ま、これでテーマが決まったワケだ。  で、さっき『水戸黄門』『暴れん坊将軍』って言ったけど、あの手の話って「一般 人の中で起こる構造的ほころびを、体制側の人がつくろってまわる」っていうお話じゃない? でも女の子って、元来、体制側じゃないんだよね。そういう人たちが世直しをするとしたら、「ほころびをつくろってまわる」話じゃなく、ハナからぶっ壊しちゃうほうが思い切りがいいし爽快だ、と思ったんだ。

 でも破壊って、けっこうエネルギーが要るじゃない。そういうエネルギーを、うちの娘にも持って欲しいな、って思ったんだよ。自分が理不尽だと感じることに対して、常に臨戦体勢、いつだってヤッてやるぞ、って元気さを持って欲しかった。社会全体でみれば、まだまだ女性は社会の上のほうには少ない。そういう構造を、自分で壊して欲しいな、って考えたわけ。

 さらに女性だけじゃなくて、例えば日本に出稼ぎに来ている外国の人たち、病気なんかで何らかの肉体的なハンデを負ってる人たち、単純にお金に困っている人たち。そういう人たちを、まとめて仲間にしちゃう、っていうやり方も面 白いなぁと思ってさ。



―それがココの種族だったり、アッシュの眼帯だったり、ジャスミンの服装だったりするわけですね。

 そういう人たちも、もっと自己主張すりゃあいいのに、って思うんだよね。このゲームでそういう気持ちが芽生えるってわけでもないんだけど、そういう立場にいる人たちが、元気になってくれりゃあ、それでいいかな、と。「さて、明日もちょっと頑張ろうかな」って思ってくれれば充分だと思うんだ。  というわけで、ルージュは象徴的なモノを次々とぶっ壊していくんだよね。



桝田省治のお仕事部屋風景〜その1
リンダキューブのポスターが壁に!




■王道の「お約束」だからこそ、ていねいに!


―『暴プリ』における“毒”の部分って、どんなところですか。


 このゲームで最大の“毒”は、魔物を倒すのに魔物を使っちゃってるところ。それを良しとして、とりあえず前に進んじゃってることだよ。その辺の自転車操業ぶりってのは、過渡期には必要なモノなんだけどね。

 あとは、竜の暴走と、竜静めの奥義の関係。シナリオを書いてるときによく新聞で話題になっていた“原発問題”と同じだよ。もし今、日本で原発を止めたら、電力が足りなくなって大混乱だよな。だから必要は必要なんだけど、他のもので済めばそれに越したことはないってことも、みんなわかってる。でもしょうがないから、次の世代が何らかの解決を見出してくれることを期待しつつ、今は使ってるわけ。そういうものって、期待するしかないんだよ。


―なるほど、そういう期待を、ルージュが背負っちゃってるわけですね。

 だからこの物語が終わった時点で、「この人だったら、将来もいろいろあっても、何とかやっていけるだろう」って希望を感じてもらえればOKかな。


―シナリオを書いていて、ここはツラかったな、ってところはありましたか?

 最初、伏線に凝っちゃって、全体が地味だったんだよ。それを、ウチの長男が看破してくれたの(笑)。



―言われちゃったんですか(笑)。

 うん。「最初はドカンと始めなきゃダメだ」って言われちゃって。ウチの息子、今小学3年生なんだけど、1年生くらいの頃から、よく一緒にシナリオの構造の話をしてたんだよね。彼の引き出しは、「戦隊モノ」や今どきのアニメの典型的なパターンなんだよ。最初に敵のデカさをドーンと見せて、それに対抗する味方側の力も見せてやるんだけど、その力には何らかの制約がある、っていうパターン。  その辺の“お約束”な構造って、作り手としては、恥ずかしいんだよね。でもウチの息子いわく、「水戸黄門をベースにしてるのに、いまさら恥ずかしいも何もないだろう」って(笑)。そりゃそうだな、だったら最初から暴走かな、と。で、いきなり主人公は必殺技を使っちゃう。

 ウチの息子、役に立つよ(笑)。意見がピュアなんだよね。最終ボスも、ヤツが決めてくれたの。もちろん答えを言われたわけじゃないんだけど、いわく「この世界で一番強いヤツを倒さなければいけない」ってね。


―ちなみに桝田さんの中では、『暴プリ』はハッピーエンドですか?

 モロにハッピーエンドでしょう。大団円だよ。

―これまでのゲームの中でも、わりと異色ですね。

 まあ、これだけお約束を並べたのは『天外魔境3』以来だよね。『天外3』なんかも、ホントお約束の集大成だもんね。「お約束=飽きちゃった、つまらない」ってのは、嘘。お約束でつまらないモノって、ディティールの詰め方が甘いんだよ。王道のものほどていねいに作らないと、つまらなくなる。『暴プリ』は十分、及第点以上だと思うよ。



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