「例のRPGのお蔵入りシナリオを小説にしましょう」
という話が、ある編集者から最初に持ちこまれたのは、たぶん2年か3年前だったと記憶している。
そのときは「やっと思い出に変わりつつあった故人の死体をもう一度、墓から掘り出してください」と言われているような嫌な気分だった。
だから断った。
だが、その編集者は、何かと理由をつけて、うちの事務所に現れ、そのたびに同じことを言った。
僕の中にも「アレに日の目を見せてやりたい」という思いはもちろんあった。
同時に「今さら、こんな亡霊を引っ張り出して誰が喜ぶんだ?」という気もした。
それから、いろいろあった。
自分で読みたくて、海法くんが書きかけた夜鳥子の続きを書き、小説を書く面白さを知ったのも大きい。
で、ちょうど去年の今頃「書くと“したら”、どんなふうにしようか?」と考えるようになった。
なんとかいけそうだと思ったのは、5月頃だった。
前半の話はわりと具体的に考えていたが、後半はどんな風に展開するか、最後をどう結ぶか、実はあまり考えてなかった。
夏の三ヶ月を費やして書いた。
物語の設定が、夏なのは、そのためだ。
今は書いてよかったと思っている。
なにより天外ファンの方が喜んでくれているのが嬉しい。