勧められたので、次は児童書を書く予定だ。
コンセプトは「怖くて子供が読めない子供向けの本」。
ということで、僕自身が子供の頃、怖かったものを思い出してみた。
書き出してみるとなかなか笑えるので、ここに転載しておく。
子供のとき怖かったものと言えば、靴、手袋、股引、長袖のシャツ。
ようするに人の形、それも人の身体の特定部分だけが想像できる物、アレが怖かった。
パンツやランニングシャツは平気だったけど。
縁側があって、天気の悪い日はそこが物干しになるんだけど、白い長袖のシャツが何枚も干してあるのを、寝ながら暗がりの中で見上げるのが一番怖かった。
あとはやっぱり天井の染み。
小学生の頃住んでたうちの天井には明らかに人の足跡と思える染みがあったな。
たぶん家を建てているときに大工が裸足の足を乗せてて、その後、足の裏の雑菌が湿気か何かで木材を変質させたとか、そんなとこだと思うんだけど、でも不気味だった。
それと三面鏡を覗きこむのが怖かった。
別の世界があるような、自分が実は何人もいるような、いくつも映っている自分の顔のひとつだけが笑っていたらどうしよう、とか。
小さな蜘蛛や蟻が寝てる間に耳の穴から入ってきたらどうしようってのもあったな。
あと、冷蔵庫に閉じ込められたらとか、シャワーが熱湯だったらとか、押入れを開けたら小さな子供が座っていたらどうしようも考えたね。
お風呂の水が止まらなくなって、かつお風呂のドアが開かなくなったらどうしようも考えたことがある気がする。
ああ、あと、寝てるときにトラックが飛び込んできたらどうしよう。
雷が落ちたらどうしようもあった。
起きたら、両親や妹が死んでたら、これも考えたな。
そういえば、うちの食卓の椅子の背もたれの外側に、マジックで顔を書いたらえらく叱られて(当たり前だ)、その顔のある椅子に追われる夢を見たことがある。
障子に映る影もけっこう怖かった。庭の木かなんかだろうけど。
そういえば二段ベッドの下に寝ると必ず、上のベッドが落ちてきたらどうしようって考えたなあ。
歯磨きを忘れて寝床に入ったときには、口から虫がわく夢も見たな。
蛇口を捻ると赤い水が出るという想像。
錆まじりの茶色い水が出るというのは、夢でもなんでもなく当時は普通にあった。しばらく水を出しっぱなしにしてからじゃないと飲めない。口に入れてから「ウゲ」ってなることも多かった。
壁の染みや映った影が全部、虫に見えた頃もあった。
爺さん婆さんの家に行くと、僕から見れば4代くらい前の先祖の写真がいくつも飾ってあった。あれも怖かったな。
それと家庭科で雑巾だか袋だか忘れたけど、それを作ってるときに針を一本なくして、畳の中に入ったような気がして、いつか歩いてるときに刺さるとビクビクしてた。
彫刻刀もだ。散々注意しなさいと脅されたからだろうけど、机の上に置いてあっても、今で言えばピタゴラスイッチみたいに何かの拍子にころがって飛んできたりしないかと心配だった。
ああ、そうそう。
スイカの種を飲み込んだときには、身体中から芽が出る想像もしたね。
あと自然発火する人間なんてのをテレビで観たら、いつか自分もそうなると思い込んでた。
自分以外がいつの間にか全部宇宙人もあったな。
お風呂の洗い場の隅に溜まってる母や妹の長い髪というのも、不気味だった。
幼い頃の家は平屋ばかりだったけど、他人の家の階段は確かに怖かった気がする。昔の家の階段って今より幅が狭くて急だったよね。子供心にそう思ったんだから、傾斜はともかく幅は相当狭かったんだと思う。
ベランダなんて洒落たもんはなかったけど、昔の家の木のサッシや手すり、囲い、みんなやわだった。
あんしんしてもたれられるもんなんてなかったな。
汲み取り式の便所は、ニオイも構造も怖かった。大便器の中をのぞいても、その上に木の床が張ってあるだけの上に自分が載っているということも怖かった。
そうそう縁の下も嫌だったな。
子供の頃は見たことがなかったけど、天井の裏も子供が見たら怖いんだろうなあ。
自分のすぐ頭の上に誰もいないけっこうな広さの闇に閉ざされた空間があるんだもの。
昔って、白骨死体が埋まっていそうな土壁がそこらにあったな。
ああ、家の中に見えない猫がいるという妄想に取りつかれていた時分もあった。
机の上から自然に消しゴムでも落ちようものなら「ドキドキ」だよ。
爺さん婆さんの家の天井は、やたら木の丸い模様が目立つ木材で、たぶんそのころ妖怪百目とかそういうのをTVか本でみたんだろうけど、その天井の丸い模様が全部目で自分を見ているというろくでもない想像をしてどんどん目がさえて眠れなくなった。
雛人形の鼻だか指だかがかけてるのが一体あって、それを母親がネズミがかじったに違いないとか言ったもんだから、僕もいつか寝ている間にネズミに鼻や指を食いちぎられるかもしれない、とか考えてたこともある。
……けっこう覚えてるもんだね。
この児童書の理想としては、読んだ子供が大人になってもう一度読んだときに、子供のときにはわからなかった怖さに気づくくらいの重層的な仕掛けがほしいと思う。
「ちょっと待て。ということは、***って、すでに***のときには死んでるってこと?」とか
「AとBって別の人のように書いてあるけど、もしかして同じ人? え、だったら、これは***が***する話? うわあああ」とか
そのへんだ。