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最近、僕は大人になったと思うんだ
桝田 省治

 ……と次男(中2)が言う。
「なんだ、それ。突然どうした?」と訊ねると、次男はこんな話をした。

 最近、お母さんと喧嘩をしなくなった。
 たとえば、お母さんが電話をしているときは「テレビの音量を下げろ」と言うくせに、僕が電話をしているときはお母さんは「聞こえない。うるさい」とテレビの音量を上げる。
 この類の理不尽さに、ちょっと前まではイチイチ頭にきてそのたびに喧嘩になったが、今はもう慣れた。
 そういう点が自分は大人になったと感じる。
 さらには、お兄ちゃん(長男)の凄さもわかるようになった。
 なにしろ、小学生のころから、お母さんの理不尽さや僕や妹の屁理屈に、怒ることもなくかつ相手を怒らせることもなく受け流してきた。
 今思えば、これは凄いことだ。

 次男の答は、だいたい以上のような主旨だ。
 で、今度は次男が僕に訊ねる。

「お父さんは、お母さんの理不尽さを承知していて結婚したのか、それとも結婚してから気づいて慣れたのか、どっち?」
「理不尽さが面白かったから結婚した……と言ったら信じるか?」
「いや、もしそれが本当だとしたら、僕はまだ大人になってないかもしれないね」

 ま、大人にもいろいろあるとは思うし、僕のような大人になってほしいともぜんぜん思わないけどな。

最近読んだもの + 雑記
桝田 省治

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●反乱のボヤージュ 野沢尚著

 連作短編集としての作法をしっかり押さえつつ、手を変え品を変え「お見事」な展開で水準以上の面白さを中盤までキープ。
 最後は期待通りの熱い展開とホッとするオチでまとめて、読み終えてみれば「元は取れた」と言うか「いいお話を読んだ」と言うか……やっぱり野沢尚、さすがにうまいなと感心。
 こういうネタへの興味は、同世代なんだなと感慨深い。


 昨日は、午前10時から午後4時くらいまで、アルファの須田くんと浅草某所で密談。
 もう一度だけ、SCEJに2の企画を出しましょうということだけ決まった。
 そのあと4時半から神楽坂でハヤカワの編集と水玉さんと「ジョン&マリー」のイラストの打ち合わせ。
 水玉さんと会うのは初めてだったので、ちょっと緊張した。
 ぜんざいを食べたのは、たぶん10年ぶりだ。


●サマー/タイム/トラベラー 新城カズマ

 仕事の資料として読み始めた。
 仕事の資料として読むには、かったるい小説で、時間ばかりとられてあまり役には立たなかった。
 だが、学生時代に読んだ懐かしい本のタイトルがあちこちに出てきて、それが過ぎ去りし日々を思い出させてくれて、古い酒をゆっくりと舐めているようでなんとも心地よかった。
 タイムトラベル物のSFやファンタジーが好きな人が、同好のために書いたような小説だ。
 そういう趣味の人にしかお勧めできないが、少なくとも僕は面白かった。
 というか、ヒロイン悠有にちょっと萌えたかも……。でも、犯人探しのいわゆるミステリー部分は、とってつけたようで、ファンの方には申し訳ないが、酷いと思う。

 ちなみに僕がお勧めするタイムトラベル物は、「夏への扉」を別格として除けば、「トムは真夜中の庭で」が一番好き。
 次点は、「ジェニーの肖像」。


●安政五年の大脱走 五十嵐貴久著

 文庫本なので表4に150文字ほど「……という状況で、さてさてどうなりますことやら」と導入部分の設定が書かれている。
 500ページほどの本なのだが、200ページ使って、やっと表4の状況になる。
 そこから先は面白い。
 が、後ろの300ページがいくら面白かろうと、エンターテイメントとして、これじゃダメでしょ。
 冒頭を火事や殺人から始めろとは言わないが、最初の200ページが大して盛り上がらない設定説明やキャラ紹介じゃ、気の短い人は投げるだろう。 
 もちろん、最初の200ページが無駄なわけではなく、後々伏線として機能する情報も多々ある。
 だけど、削れるところはあるし、小説は時系列にそって書かなければならないという決まりがあるわけじゃないのだから、構成を工夫すればもっと「すぐ面白い」作品にできたはずだ。
 せっかく面白い素材なのに、ようするに編集がヘタ、あるいは怠慢だ。

 そういえば、この表紙のイラスト。 こんなシーン、どこにもない。
 ウソも大概にしとけ。