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パクりに関する個人的見解
桝田 省治

「Twitterにアイデアを書いてパクられないのか?」という声もある。
 だが、僕は逆に「なぜパクらないのだろう?」と不思議でしょうがない。
 たとえば、俺屍では戦闘になる前に3つのスロットが回り、戦利品が事前に決定するというシステムを、戦闘が飽きない仕掛けとして入れた。
 戦利品の良し悪しにより、とるべき戦術が変わるなかなか気の利いたアイデアだと思う。
 だけど、僕の知る限り同様のシステムを模倣したRPGは見たことがない。俺屍でこのシステムの性能は証明されているのだから、僕なら安心して使える部品として臆面もなく取り込むがな。新しく考えるより面白さが安定する。
 だいたい、僕自身、このスロットマシンもどきの演出にしても、戦利品のドロップ確率が逆転する「熱狂の赤い火」(フィーバータイムだ)にしても、パチスロで性能が証明された部品としてパクったわけだ。
 複雑で大きなシステムを組むとき、性能が実証され安定している部品が既存の物から調達できるなら、全体のシステムを組む労力がかなり軽減できる。開発費も下がる。値段も安くなる。なぜパクらないんだろう、本当に不思議でしょうがない。
 パクるなんて、クリエーターとしてのプライドが許さないのだろうか? だとしたら、笑える。「芸術でもやってろ」と言いたい。

 僕の意見では、普通の人の娯楽に対する普通の感覚は「***みたい」というなんとか想像がつく範囲の楽しさか「***さんが面白いって言うから」という追随だ。
 日常が大変なのだから、ゲームをしている間くらい「バカ」でいいじゃないと思う。僕は仕事や学校でがんばって、ゲームをしているほんの数時間だけ「バカ」になる人たちの休息時間を全力で楽しいものにしたい。
 そのためなら、僕は恥も外聞も喜んで捨ててやるし、臆面もなくいいものはパクる。
 もう一度言う。なんでパクらないんだ? 不思議でしょうがないな。

「じゃあ、パクるぜ!」という方への注意。たとえば、先にあげた戦利品を戦闘の前にプレイヤーに提示するアイデア。これをパクるとしようか。
 ほとんどのRPGでは戦闘終了時にプレイヤーの見えないところでサイコロを振って戦利品を決めている。それを戦闘前に移して、プレイヤーの目の前で決めるだけだ。部品を移動するだけだから簡単だ。
 だが、移動しただけでは実はこのシステムの性能の100%は発揮されない。このシステムの面白さ、あるいは意義を支えている他のシステムや演出があって成立している。
 すぐにわかるのは、敵側に、せっかく確定した戦利品を「持ち逃げする」という戦闘行動が組み込まれていること。これがあることを知っているからプレイヤーは、盗られてなるものかと手に汗握る。
 次に俺屍ではアイテムや術などの、正確な数字は覚えてないが、半分以上が店では買えない、戦闘でしか手に入らないものだ。こういう大胆なバランスになっているから、戦利品の獲得に躍起になる。
 三つ目。俺屍は世代交代をメインすえたシステムだが、次世代に遺伝形質以外にお金や技や名前や家宝を継承し、家自体が成長していく。この「継承」という大テーマに、この戦利品を最初に決めるシステムは、合っている。
 こんな風にその面白さがどうして成り立っているのか分析してからパクるといいよ。
 自分が作りたいものに合うところだけ切り取って、さらに他の部品との整合性をちゃんと吟味すること。じゃないと浮くからね。

 ……てなことがまとめてあるのが三月末技術評論社から発売予定の「ゲームデザイン脳 桝田省治の発想とワザ」だ。
「……な~んだ宣伝かよ」って?
 うん、そう。宣伝だ(笑)。