●Y 佐藤正午著
何度も過去に戻ってやり直す「リプレイ」によく似ている。
よく似ていること自体は、ちゃんと面白かったので特に問題ない。
この類の話は過去と現在が交差するので混乱しがちだが、情報の配置がけっこう丁寧なのでそれも問題ない。
時代のディテールの描写に関しては、野沢尚氏の作品を読んだ直後だとさすがに見劣りするが、でもまあ1960年生まれの僕には80年代なら自分の記憶で補える。だから、これも大した問題ではない。
問題は、あくまで個人的趣味だが、こういう過去に戻ってやりなおす話の「お約束」として、少なくとも誠実な登場人物は全員ハッピーエンドにしろとは言わないが、苦労が報われてほしいな。
じゃないと、なんか嫌だ。
●退屈姫君 これでおしまい 米村圭伍著
大好きなんだよ、このシリーズ。その4巻目、最終巻だ。
これで終わりかと思うと、正直寂しい。
気づかずにヒロインの口癖までパクってたのはどうにもカッコ悪いが、「ジョン&マリー」を書く際、このシリーズの話の構造やトーンの明るさはかなり意識した。
剣と魔法とモンスターが出てくる「退屈姫君」ファンタジー版が書けたらいいなあ、くらいの軽い気持ちで書き始めたと言ってもいい。
なんだけど、この最終巻を読み終えての感想。
「ゼンゼン本家に届いてないや……」
菊の品種改良、いろは歌の薀蓄などなど、こんな博識な方が大衆娯楽小説を全力で書いてそれが商売になってる日本って、案外いい国かもしれんとため息が出た。
キャラの暢気さに癒され、語りのうまさに引き込まれ、江戸時代の風物に関する造詣の深さにうなり、風呂敷のたたみ方がきれいなので読後感もいい。
巻を重ねるごとにネタがマニアックになっていくので、いきなり4巻から読むのはおすすめしないが、多くの方にぜひ1巻から読んでほしい。