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ポストの中に蜂
桝田 省治

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 郵便物を取り出そうとポストのふたを開け、中に手を入れたら、まさしくチクリという痛み。
 そして、ポストの中から悠々と足長蜂が飛びたった。
 なぜポストの中に蜂が入っていたのか、それはこの際どうでもいい。
 親指の付け根あたりから徐々に痛みが増していた。
 とりあえず、刺された部分をさがし、前歯ではさみ毒を抜くべく思い切り噛む。
 そうしながら、トイレ(玄関から一番近い給水ポイント)に走り、流水で患部を洗う。
 だが、痛い。
 ふと思い出したのが、おしっこで洗うという民間療法。
 足長蜂は、酢だったんじゃないか? とも一瞬思ったがとにかく痛い。
 ちょうどそこがトイレであったから、手におしっこをかけることにする。
 しかし!!
 郵便物を取りに行く前にトイレに行ったばかりだ。
 これがなかなか出ない。
 それでもなんとか絞りだすようにしてチョロチョロとかける。
 結果的には、おしっこが効いたとはあまり思えないものの、痛みは不思議なくらい急速に治まった。
 これで雑菌なんかに感染した日には笑い話にならないので、再び手を洗う。
 洗いながら考えたこと。

 たとえば、恋人と山奥にキャンプに行ったとしよう。
 山道の途中の茂みでおしっこをした直後に蜂に顔を刺された。
 近くに水場はないし、効きそうな薬の持ち合わせもない。
 そこで、蜂に刺されたときには、おしっこをかければいいという民間療法を思い出す。
 もう痛くて痛くてしょうがない。
 頭にあるのは、おしっこをかけさえすればこの痛みから逃れられるという強迫観念だけだ。
 背に腹は変えられないと恋人に
「私の顔にあなたのおしっこをかけて!!」
 と頼めるかな?
 逆はどうだろう。頼まれたときは?

*追記
「ある日突然日常に起こりえる恥辱プレイ」というテーマでまとめた短編集、需要はあるだろうか?
 ちょっと読んでみたい気はするなあ。

神谷さん誕生日おめでとうございます
桝田 省治

 コナン降板の理由は憶測になるので書かない。
 じゃあ、何を書くかといえば、リンダキューブPCエンジン版の音声収録の思い出話だ。
 たぶん、1994年だったと思う。
 実はその収録日が神谷さんの誕生日だった。
 リンダキューブの声優陣は、高山みなみ、矢尾一樹、内海賢二、青木和代、神谷明、増山江威子、青野武、佐久間レイ (敬称略)と目が飛び出しあごが外れるほどの豪華さだ。
 もちろん「それなりに」お金もかかってるわけだが、実は「ビックリ」するほどはかかっていない。
 これだけの面子ともなれば、お金よりはむしろ大変なのは、スケジュール調整だ。
 その予算管理、スケジュール調整をやってくださったのが、上記には出てこない大物声優、賢プロのマネージャーでもある野村道子さんだ。
 野村さんはリンダのシナリオを読み、「これは面白い」と言ってくださり、さらには「私が思う最適の人を集めてあげる。大丈夫、任せて」と請けおってくださった。
 で、「あなたにピッタリの面白い役があるんだけどやってくれない?」と(たぶんシズカちゃんの声で)電話をかけまくって集めてくださったのが上記のとんでもない顔ぶれというわけだ。

 たぶん予算削減のためだろう、収録場所は早稲田あたりの古ーーいスタジオだったと記憶している。
 日曜日だった。日曜日はよほどのことがないかぎりレギュラー番組の収録がない。ようするに声優さんも一般人同様、本来はお休みなのだ。
 つまり、超お忙しい方々の貴重な休みを返上していただいたことになる。
 もちろんそんな無茶ができたのは、野村さんの人徳と豪腕の賜物だ。

 で、その日は日曜であるばかりか、神谷さんの誕生日だった。
 神谷さんは、ご家族とでかけるレストランまで予約していたそうだ。
 なのに、来てくださった。
 本当に嬉しかったよ。
 拘束時間は1時間ほど。なにしろ、レストランの予約があるから。
 結局、30分くらいで終わったと思う。
 上記のような面子だと、演出意図の理解も早いし演技が正確だから、NGが異様なくらい少ない。驚異的なスピードで収録が進むんだ。
 余談だが、この収録以降、僕はいわゆる新人声優はできるだけ避けるようになった。おかげでネクストキングはギャルゲーのくせに平均年齢が35歳くらい(笑)

 神谷さんの拘束時間は1時間。30分で収録が終わったわけだから30分余った。その時間、何があったか?
 ここでもさすが野村さんだ。
 30分で終わると見越していたのだろう、バースデイケーキが出てきたんだよ!
 さらに僕はこのあと、凄いものを聞く。
 なんと上記豪華声優陣による合唱「ハッピーバースデイ、トゥユー」だ。
 だって、コナンとジャイアンのお母さんとジュドーと則巻千兵衛と峰不二子とピッコロ大魔王とバタコさんに、ワカメちゃんまで加わった合唱なんて想像できるかい?

 ……とここまで書いて、ふと気づく。
 もしかしたら、リンダの収録日は神谷さんの誕生日ではなく、神谷さんのお嬢さんの誕生日だったかも。だとしたら、9月18日じゃないね。
 あらら(笑) 

最近読んだ本 寸評
桝田 省治

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●ジャガーになった男 佐藤賢一著

 伊達政宗の命によりイスパニア(スペイン)に渡った使節団の斉藤寅吉という侍が主人公の伝奇小説。

 読み終えた直後の感想:なんじゃ、これ?
 5秒後:いいのか、これで?
 10秒後:いいんだろうなぁ、面白かったし……

 学んだこと:ウソは「気前よく」つくもんだ。


●サウスポー・キラー 水原秀策著

 よくできた小説なので先に数少ない欠点をあげる。
・ハードボイルドっぽい洒落た会話が随所に挿入されているのだけど、個人的な趣味では、そのうちのいくつかはすべってるように感じた。
・ミステリー部分、野球の試合の描写、興味を引くキャラ、どれも及第点以上なのだけど、バランスがよすぎて「ここが凄い」という驚きが薄かった。

 ミステリー小説としてもプロ野球を題材にした小説としても、もちろん娯楽小説としても、当たり前のようにちゃんと面白い。
 いやホント、よくできた小説だと思う。


●人格転移の殺人 西澤保彦著

 6人の身体に6人の人格が次々にスライドするように入れ替わっていく中で起きる殺人事件。

 なるほどこういうのもアリなのか、ちょっと驚いた。
 これがありなら、まあ、いろいろアリだよなとは思う。


●アイルランドの薔薇 石持浅海著

 実は、「アイルランドの薔薇」というタイトルを見て期待していたのは、ドンパチとかドカンとかの血肉が飛び散る、それもドロドロした憎悪だらけの、なんかそういうえげつないものだった。
 で、読み始めたのだけど、そういう意味では見事に期待はずれだった。
 でも、複雑で美しい詰め将棋のごとき過不足のない密室ミステリーで、その類の上手に組み上げられた小説を読み終えたときの気持ちよさは十分に堪能できた。
 ただし、よくできたミステリーにありがちな、登場キャラの機械的な役割分担というか駒化は多少感じたかな。
 まあ、外道なものを期待してたから、まっとうさが薄味に思えただけかもしれないけど。

読んだ本、読めなかった本
桝田 省治

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●大久保町の決闘 田中哲弥

 先に断っておくけど、この後に続くのは褒め言葉です。
「くっだらねえ!!」
「頭おかしいんじゃねーの」
「ふざけるのも大概にしとけ」

 文体の妙や脱線した小ネタの応酬だけで、もっちゃう小説もあるんだなと感心する反面、これを維持するのは理屈ではないだけに、本気でやると身を削るんだろうなと思う。

●慟哭 貫井徳郎著

 珍しいと言うほどじゃないけど、構成がちょっと変わっていて、その構成が巧みゆえにオチが薄々わかってしまい、おまけに引っぱった挙句にそのオチがピタッと決まってない気がした。
 丁寧で好感は持てるし、面白かったのけど、ちょっと残念。

●冒険商人アムラフィ 中里融司著

 やっと手に入れた。楽しみにしていたのに……。
 字が小さくて行間がルビで埋まっていて、3ページ読んだだけで目が痛くなってきた。
 僕の年齢では、少なくとも蛍光灯の下では読めない。
 メガネを新調するか、南の島のプールサイドに行くまで中断。

●龍時01-02 02-03 03-04 野沢尚著

 そっか、サッカーで冒険アクション小説って成立しちゃうんだ。
 やっぱ、野沢尚さんは只者じゃなかったよ。
 スゲ~とただただ感心。

 二冊の続編は正当であり、かつ新しいテーマに挑戦している。
 素晴らしい。

 ふと著者のプロフィールを見たら僕と同じ年に生まれていた。
 この龍時03-04の続編の構想や「ライフワークにする」と語ったすぐあとに自殺したんだね。
 何があったか知らないけど、今さらながら残念だ。
 不謹慎だが、あと30冊くらいは書いてから逝ってほしかったよ。

【企画】100円均一ショップ
桝田 省治

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 100円均一の量販店とか回転寿司とか、あれは独特の楽しさがある。
「これが100円!?」という驚きだったり、
「これもこれも100円? でも両方はいらない。どっちにしよう?」という楽しい迷いだったり、あるいは
「そっか100円だとこの量ね」とか「この機能を削ったのか、なるほど」とか、商品企画者の思い切りのよさに対する感心だったり、
「次に来たときはないかも」という妙な焦りだったり……。

 この面白さをゲームにいかせないかと、ふと思いつく。
 たとえば、普通のゲームで買い物をする場面を想像すると、さまざまな値段のアイテムが並んでいて、おおよそ値段と性能が比例している。
 それを強引にセット販売やあえてデメリットを開示することで、100円にしてしまう。
 ・攻撃力50の剣 ただし100回に一度壊れる
 ・攻撃力100の剣 ただし50回に一度壊れる
 ・攻撃力150の剣 ただし10回に一度壊れる
 ・薬草1ダースセット
 ・雷の巻物 敵全体に100ダメージ 2~4回使用可能
 ・移動の巻物 使い捨て
 例は適当だが、こんな感じで。
 飽きるようなら、新しい街は200円均一の店にすればいいし、ときどき2割引セールが入ると、刺激になる。メニューが入れ替わるのも悪くない。中身がわからないがアイテムが二つ入っているお楽しみ袋なんてのもアリだろう。
 で、倉庫や馬車は大きくとるが、携帯用の道具袋はあえて小さく制限する。
 けっこうプレイヤーにより買うものが違ったり、買うだけ買って使わなかったり、小さな道具袋に何を入れるか迷ったり、組み合わせて使うことを思いついたり、
 地味だが案外とゲームとしては面白い気がする。

 設定は、シンプルに……。
 ある日王様がおっしゃいました。
「聞くところによれば、100円ショップというものは実に楽しいところらしい。よって本日只今より我が国の店は、すべて100円ショップだけにするぞよ」

 わけのわからない理由で高速道路が1000円均一になったりする国の国民なら、さほど抵抗のある設定ではないと思う。