


●セリヌンティウスの舟 石持浅海著
謎の自殺を遂げた仲間、それに協力したであろう仲間がグループの中にいる。
通常のミステリーでは疑うことで謎が解けるのだが、ふたりをとことん信じることで真相が解明する、という逆のアプローチ。
それに伴う斬新なテーマ。
何よりその発想を破綻なく一冊のミステリー小説にまとめた腕前。
へ~~凄いなあ、と感心。
ただ一点、あえて欠点を挙げるなら、この小説、200ページちょっとの分量でおそらく180ページほどがマンションの一室で行われる会話で構成されているのだが、それにしては、キャラ立てが弱い。
最後の謎解きの部分を除けば、このキャラだから、気づくこと、気づかないこと、言うこと、言わないこと、このあたりの書き分けがおざなりだ。
箇条書きにした伏線情報を登場キャラにバランスよく割り振って口調を整えたただけみたいな感じで、やや退屈。
寡黙な人がひとりいるだけで、ぜんぜん印象が違ったと思う。
●呼人 野沢尚著
12歳のまま成長が止まった少年の話が1985年から始まって章ごとに7年経過していく。最終章は2010年だ。
当然、少年の友人や家族は大人になり、あるいは年老いていく。少年だけが変わらない。
さすがに野沢尚だけあって各エピソードが面白いので最後まで読めてしまうのだが、少年の成長が12歳で止まった経緯が明かされていく件は、細かな設定が却って嘘くさい気がした。
というか、この話、このテーマには、原因の説明は不要だったのではないかとさえ思えた。
主人公が見聞きした各時代のニュースは、1960年生まれの僕には、「ああ、そういえばあったな、そういうこと」という話ばかりで、主人公よりは、むしろその周りで歳をとっていく人たちのほうに共感を覚えた。
その共感は、絵空事の小説を読んでいるのに自分のアルバムをめくるような郷愁に似た不思議な感覚だった。
それに、読み終えたのにまだ続きがあるような気がして、キレの悪さが心地いいというか、これもまた不思議な感覚だ。
●扉は閉ざされたまま 石持浅海著
密室殺人なのに最後の最後まで「扉は閉ざされたまま」という、なんとも斬新な発想のミステリーだ。
「セリヌンティウスの舟」もそうだが、よくそんなことを思いつき、それをカタチにできるもんだと感心する。
ミステリーとしては一級品であることは間違いない。
けど、読み終えて一言だけ感想を書くなら「そんなヤツはいねえ」だなあ。
文庫版で追加されたらしい事件前のエピソードも、犯行動機をわかりやすくするためなんだろうけど、蛇足だ。
それよりも人間をもっと面白く書いてほしい。
この著者の描くキャラクターは、姿かたちは違っても無臭の人ばかりだ。